3. EUにおけるIFRSの採用状況
1995年11月の「会計の調和:国際的調和のための新たな挑戦」(ACCOUNTING HARMONISATION:A NEW STRATEGY VIS-A-VIS INTERNATIONAL HARMONISATION)や2000年6月の「EUの財務報告戦略:進むべき道」(EU Financial Reporting Strategy:the way forward)の公表等を通じてIFRSの採用に向けた検討が行われた結果、2002年7月、その採用が決定されました。
現在、EU域内の上場企業はIFRSを既に適用しており、EU域外の上場企業は2009年1月からIFRS又はIFRSと同等の会計基準の適用が義務付けられています。なお、日本の会計基準はEUで採用されているIFRSと同等であるとの評価を受けたため、2009年以降もEU市場にて利用することが可能となっています。
(1)EU域内企業
2002 年7月、IASの適用に関する規則((EC)1606/2002)が採択され、上場会社は2005年1月よりIFRSに準拠した連結財務諸表を作成することが義務付けられました。ただし、一部の金融機関がその適用に強く反対していたIAS32号「金融商品:表示」(Financial Instruments: Presentation)及びIAS39号「金融商品:認識及び測定」(Financial Instruments: Recognition and Measurement)は、準拠すべきIFRSから除外(カーブアウト)されています。すなわち、IAS32号及びIAS39号並びにこれらに関連する解釈指針を除く9月14日時点のすべてのIASの適用に関する規則((EC)1725/2003)が2003年9月に採択されたことにより、これらの基準をカーブアウトしたIFRSがEUでは適用されています。
(2)EU域外企業
2003年12月の目論見書指令(Prospectus Directive)(2003/71/EC)において、IOSCOを含む国際的な証券監督機構が定めた国際的な会計基準又は同等の基準(IFRS又はIFRSと同等の会計基準と同義と考えられます)に準拠した開示が上場会社に義務付けられました(日本で言うところの「2005年問題」)。
その後、2004年4月の目論見書指令の施行に関する規則((EC)809/2004)により、2006年末までは原則として自国基準(“the national accounting standards of a third country”)による開示が認められました(同「2007年問題」)。
さらに、当該規則を改正する規則((EC)1787/2006)が2006年12月に採択され、2008年末までは日本・米国・カナダの会計基準による開示等が認められました(同「2009年問題」)。
現在では、さらにこれを改正する規則((EC)1289/2008)が2008年12月に採択され、EUで採用されているIFRSと同等であるとされた日本と米国の会計基準による開示等が認められ、中国・カナダ・韓国及びインドの会計基準による開示の場合には、2011年末までは修正再表示及び会計基準の相違に関する定性的な記述の義務が免除されました(金融庁ホームページ)。
このように適用期限が延長されてきたのは、各国がIFRSをアドプション又はコンバージェンスするなか、各国の会計基準がIFRSと同等か否かを、欧州委員会の指示に基づいて欧州証券規制当局委員会 (Committee of European Securities Regulations、以下、CESR)が検討していたためです。ちなみに、日本におけるIFRSへのコンバージェンス・プロジェクトには、CESRによる同等性評価の結果が大きな影響を与えています。
なお、会計基準の適用に関しては、発行開示を規制する目論見書指令とほぼ同様の内容が、継続開示を規制する透明性指令(Transparency Directive)でも採択されています。
4. 米国におけるIFRSの採用状況
かつて米国は、米国会計基準は世界で最も高品質の会計基準であると公言していたと言われますが、2000年のコンセプト・リリース(Concept Release on International Accounting Standards)の公表や2002年のノーウォーク合意以降、IFRSの採用に向けて大きく方向転換したと考えられます。
現在、非米国企業はIFRSを差異調整表なしに適用することが容認され、米国企業は2014年以降に強制適用となることが示唆されています。
(1)ノーウォーク合意
2002年10月、IASBと米国の財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board、以下、FASB)が、いわゆるノーウォーク合意
(The Norwalk Agreement)を公表(合意は9月)しました(ASBJホームページ)。この合意では、高品質で互換性のある会計基準を開発するため、IFRS及び米国会計基準を完全に互換性のあるものとし、かつ、互換性を維持し続けるための作業計画を調整する最善の努力をすることを誓約しています。
経済統合を果たしたEUにとっては、域内資本市場における会計基準も統合することが急務であったわけですが、新しい会計基準をゼロから作成するのではなく、既存の会計基準であるIASを改善し、これを統一的に採用することを義務付けたのです。
将来にわたり、IFRS及び米国会計基準の差異を解消する努力を続けることに合意した点で、非常に重要な意味を持っていると考えられます。
(2)ロードマップ
2005年4月、SECスタッフが公表した「ある規制当局者の統合化に関する見解」(A Securities Regulator Looks at Convergence)に、当時のEUコミッショナーのマクリービー氏とSEC議長のドナルドソン氏が合意しました。
当該見解の中では、非米国企業がIFRSに準拠して作成した財務諸表を米国会計基準に調整するための差異調整表の廃止に向けたロードマップが提示されています。具体的には、IFRSに準拠して作成された2005年の財務諸表及び米国会計基準への差異調整表を調査し、IFRSと米国会計基準の差異を分析することで、ノーウォーク合意に基づく差異の解消作業を促進し、遅くとも2009年までには差異調整表を廃止することが提案されています。
(3)MOU
2006年2月、IASBとFASBとの間で、IFRSと米国会計基準のコンバージェンスのロードマップに関する覚書(Memorandum of Understanding、以下、MOU)が合意されました(ASBJホームページ)。ロードマップに基づく差異分析の結果を具体的にMOUとしてとりまとめ、その時点での重要な差異を短期コンバージェンス項目と他の共同プロジェクト項目に分け、2008年までに達成すべき目標を設定したものです。
短期コンバージェンス項目は、2008年までに差異の解消作業が完了または実質的に完了されるべき項目であり、FASBが実施すべき項目としては公正価値オプション等が、IASBが実施すべき項目としては借入費用等が、両者が共同して実施すべき項目としては減損等が挙げられています。
一方、他の共同プロジェクト項目は、2008年までに完了することはできないと考えられるが、測定可能な進展が求められるべきものであり、企業結合などの11項目が挙げられています。なお、2008年9月に改訂されたMOUでは、2011年までに結論を得るという目標が新たに設定されています。
(4)差異調整表の廃止
(ア)非米国企業の場合
2007年11月、SECは、2007年11月15日以後終了する事業年度より、SECに登録する非米国企業がIFRSに準拠して作成した財務諸表を差異調整表なしに受け入れることを決定しました。ただし、ここで言うIFRSとはIASBが作成したIFRS(“IFRS as issued by the IASB”)を意味しており、カーブアウトされたIFRSや各国により修正されたIFRSは認められていません。したがって、EUの採用しているIFRS は認められていないこととなります。
(イ)米国企業の場合
2008年11月、SECは、SECに登録する米国企業がIFRSに準拠して作成した財務諸表を受け入れるためのロードマップ(案)を公表しました(日本公認会計士協会ホームページ)。これによると、2014年以降、企業規模に応じて順次、IFRSを適用することを強制し、一部企業については2009年からの早期適用も認めることが示唆されています。ただし、その前提として、いくつかの項目(マイルストーン)が2011年までに達成される必要があるとされています。すなわち、2008年 9月のMOUに基づきIFRSが高品質で十分に包括的なものとなったか否か等を2011年に確認し、その時点で改めてIFRSを強制適用するか否かを判断するものとされています。
次回(最終回)は、日本におけるIFRS採用に向けた検討状況について説明します。
太陽ASG有限責任監査法人
公認会計士 中野秀俊
text : hidetoshi nakano












