5. 日本におけるIFRS採用に向けた検討状況
EU において、域外上場会社に対してもIFRS又はIFRSと同等の会計基準の適用が義務付けられたことに伴い、日本の会計基準に準拠した財務諸表がEU域内で受け入れられるためには、日本の会計基準がIFRSと同等であると評価されることが必要となりました。同等性評価はCESRによって実施され、2005 年の評価では、IFRSと日本の会計基準の間には26項目の重要な差異があるとの指摘を受けました。そのため、ASBJによるコンバージェンス作業は、当該差異の解消を中心的な目標として実施されてきましたが、2008年12月、解消作業が終了しました。
現在では、我が国においてもIFRSを採用する方向に向けた議論が本格的に開始されています。
(1)同等性評価
2005年7月、CESRは「特定第三国の公正なる会計基準の同等性及び財務情報の法執行に関する特定第三国のメカニズムの記述に関する技術的助言」(注1)を公表しました(金融庁ホームページ)。当該技術的助言では、日本・米国・カナダの会計基準はIFRSと全体として同等であることを認めています。しかし、各国の会計基準にはそれぞれ26項目・19項目・14項目の重要な差異があるとし、その重要性に応じて補完計算書、開示B及び開示Aの補完措置(注2)を取ることが要求されました。
(注2) 補完計算書:IFRSで仮定計算した場合の要約財務諸表 開示B:IFRSに準拠して処理した場合の定量的影響(損益又は株主持分への税引前後の影響) 開示A:自国基準による開示を補強する定性的・定量的情報
(2)プロジェクト計画表
2006年1月、同等性評価の結果を受けてASBJは「日本基準と国際会計基準とのコンバージェンスへの取組みについて―CESRの同等性評価に関する技術的助言を踏まえて―」を公表し、CESRから指摘された26項目の2008年時点におけるコンバージェンスの達成状況の見通しを整理しました。
さらに、2006年10月には「プロジェクト計画表」を公表し、2007年末までの作業計画を四半期ごとに明らかにするとともに、2008年年初における達成状況の見通しを更新しました。
(3)東京合意
2007年8月、IASBとASBJが、「会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組への合意」(いわゆる東京合意)を公表しました。この合意では、CESRから指摘された26項目については2008年までに解消又は会計基準が代替可能となるような結論を得るものとし、残りの差異については2011年6月30日までにコンバージェンスをもたらすものとしています。ただし、2011年6月30日以降に新たに適用されるIFRSについては、対象外とされています。
(4)プロジェクト計画表の更新
2007年12月、東京合意の内容を踏まえてプロジェクト計画表が更新され、2008年を目標とする短期項目(EUによる同等性評価に関連する項目)、2011年6月30日を目標とする中期項目(既存の差異に係る項目)及び具体的な目標は設定しないがコンバージェンスを図っていく中長期項目(IASB/FASBのMOU項目に関連する項目)に区分され、項目ごとの期日がより明確化されました。
さらに2008年9月には、IASBとFASBによるMOUが同月に改訂されたことを踏まえ、また、コンバージェンス作業の進捗状況を反映するため、プロジェクト計画表が更新されました。当該プロジェクト計画表では、新たな中長期項目として、IASBとFASBによるMOU以外のIASBでの検討に関連する項目が追加されています。
(5)短期コンバージェンス・プロジェクトの終了
2008年12月、ASBJは東京合意に掲げた短期コンバージェンス項目が終了したことを公表しました。これにより、CESRから指摘された26項目すべてについて、日本の会計基準を改正又は新設し、差異の解消が終了したことになります(対応状況についてはこちらを参照)。
なお、これより少し前の2008年3月には、ASBJが東京合意における目標を予定通りに達成できないのでない限り、日本の会計基準はIFRSと同等であると評価すべきとの結論がCESRから公表されました。これを受けて2008年12月、目論見書指令の施行に関する規則((EC)809/2004)を改正する規則((EC)1289/2008)が採択され、日本の会計基準はEUにおいて採用されているIFRSと同等であることが最終決定されています(金融庁ホームページ)。(6)我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)
2009年2月4日、企業会計審議会企画調整部会より、「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」が公表されました。EUのみならず米国においてもIFRSが採用される可能性が高まったことにより、我が国においてもIFRSの採用に向けたロードマップを作成すべきである、との指摘に応えたものです。
その内容は以下のとおりですが、現時点では案の段階であり、今後の議論の行方によっては変更される可能性があることにご留意ください。
(ア) 連結先行
我が国の会計制度は、金融商品取引法、会社法及び税法が深く結び付いており(いわゆる「トライアングル体制」)、また、連結財務諸表は個別財務諸表を基礎として作成されるため、IFRSを全面的に採用するためには、この関係を調整する必要があると考えられます。しかし、この点はひとまず今後の議論に委ね、連結先行の考え方、すなわち、「今後のコンバージェンスを確実にするための実務上の工夫として、連結財務諸表と個別財務諸表の関係を少し緩め、連結財務諸表に係る会計基準については、情報提供機能の強化及び国際的な比較可能性の向上の観点から、我が国固有の商慣行や伝統的な会計実務に関連の深い個別財務諸表に先行して機動的に改訂する考え方」が提案されています。
(イ) 任意適用
2010年3月期の年度の財務諸表から任意適用を認めることが提案されています。
- (i)対象会社
-
以下の条件に合致する一定規模以上の上場会社であれば、任意適用することができます。
- 継続的に適正な財務諸表が作成・開示されている
- IFRSよる財務報告について適切な体制を整備し、IFRSに基づく社内の会計処理方法のマニュアル等を定め、有価証券報告書等で開示している
- 国際的な財務活動行っている又は市場において十分周知されている
- (ii)対象財務諸表
- 連結財務諸表にのみIFRSを適用します。ただし、連結財務諸表を作成していない会社にあっては、日本の会計基準による個別財務諸表に加えて、追加的な情報としてIFRSに準拠した個別財務諸表を作成することができます。
- (iii) 準拠すべきIFRS
- 基本的には、IASBが作成したIFRS(日本語翻訳版)をそのまま適用します。
(ウ) 強制適用
IFRS適用に向けた課題の達成状況等を確認し、IFRSを強制適用するか否かを判断する時期は、とりあえず2012年を目途とすることが提案されています。
- (i) 対象会社及び適用時期
- IFRSへの移行が適当であると判断されてから、実務対応上必要かつ十分な準備期間(少なくとも3年間)が経過したのち、上場企業に一斉に適用されます。
- (ii) 適用範囲
- 連結財務諸表にIFRSを適用しますが、個別財務諸表については今後も継続して検討されます。なお、非上場会社に対して任意適用を認めるか否かについても、改めて検討されます。
6. おわりに
2008 年で一通りのコンバージェンスが終了したとはいえ、我が国でIFRSを採用するとなると、過年度遡及修正などの既存の差異に加え、IASBとFASBが現在開発中の財務諸表の表示や収益認識に関する新たな会計基準など、多くの会計基準の新設や改正が予想されます。また、これまでと異なりIFRSは原則主義という特徴があるため、どのように実際の実務に適用していくのかについても大きな課題となる可能性があります。上場会社にとっては今後のIFRSの動向にも注意しつつ、早目の事前準備をしておくことが重要であると思われます。
以上
【参考文献】
橋本尚「2009年 国際会計基準の衝撃」(日本経済新聞出版社)
山田辰己「IFRSに収斂しつつある国際情勢と日本の会計基準」(国際会計研究学会第24回研究大会(2007年11月24日)記念講演会 資料)
企業会計審議会「国際会計基準に関する我が国の制度上の対応について(論点整理)」(2004年6月24日)
太陽ASG有限責任監査法人
公認会計士 中野秀俊
text : hidetoshi nakano












