企業が将来にわたって事業活動を継続するとの前提(以下、継続企業の前提という)に関する注記について定めた開示の基準及び監査の基準が、2009年4月に大きく改正されました。これは、継続企業の前提に関する規定や実務を国際的な基準と整合させ、投資者により有用な情報を提供する観点から行われたものです。
本稿では、継続企業の前提に関する注記(以下、GC注記という)がどのように改正され、今後はどのように開示されるのかについて解説します。
なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。
1. 経緯及び経過
我が国にはGC注記について規定した明確な会計基準は存在せず、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、財務諸表等規則という)等の中にGC注記の開示に関する規定があり、開示のガイドラインである「『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則』の取扱いに関する留意事項について」の中で、GC注記の考え方について「監査基準」を一部参照している、という関係にあります。そのため、今回の改正では、開示の基準のみならず、監査の基準についても同時に改正されています。
2009年3月24日開催の企業会計審議会第19回監査部会において、監査基準や財務諸表等規則等のうち、GC注記に関連した部分の改正について議論され、3月26日には監査基準の改訂案が、3月27日には財務諸表等規則等の改正案がパブリックコメントに付されました。その後、4月9日開催の企業会計審議会総会・第20回監査部会合同会合において監査基準の改訂が決議され、翌日、「監査基準の改訂に関する意見書」が公表されました。また、4月20日には「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」が公布され、施行されました。このように非常に短期間で一連の改正が行われたのは、新ルールに基づくGC注記の開示を2009年3月期の財務諸表に間に合わせるためです。
なお、これらと歩調を合わせ、「会社計算規則の一部を改正する省令」が2009年4月20日に公布・施行され、翌日には日本公認会計士協会から各種の改正委員会報告が公表されました。改正された主な関連規定及び基準は、文末の「(参考)」をご参照ください。
2. GC注記に関する開示規定
改正前後における財務諸表等規則第8条の27及び会社計算規則第100条における規定は、概ね以下のとおりです。
(1)改正前
貸借対照表日において、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する場合には、以下の注記を行う。
- 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
- 継続企業の前提に関する重要な疑義の存在
- 当該事象又は状況を解消又は大幅に改善するための経営者の対応及び経営計画
- 当該重要な疑義の影響を財務諸表に反映しているか否か
(2)改正後
貸借対照表日において、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に重要な不確実性が認められるときは、以下の注記を行う。ただし、貸借対照表日後において、当該重要な不確実性が認められなくなった場合は、注記を要しない。
- 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
- 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
- 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
- 当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映しているか否か
3. GC注記の要否の判断
経営者が財務諸表を作成するに当たり、継続企業の前提が適切であるかどうかを評価し、必要に応じてGC注記を付すまでの判断過程を改正の前後で図表化すると、以下のとおりとなります。
出所:企業会計審議会第19回監査部会資料
(1)継続企業の前提に関する重要な不確実性
従来、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような(注1)事象又は状況が存在する場合にGC注記の対象となっていましたが、改正後は、単に事象又は状況が存在するだけではなく、これを解消し、又は改善するための対応(以下、対応策という)をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合にGC注記の対象となりました。したがって、従来はGC注記が付されていたケースの一部について、対応策によって継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められなくなり、GC注記に至らなくなるケースも生じることとなります(この場合における開示については、「4.GC注記以外での開示」を参照)。
我が国ではこれまで、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在している場合には、画一的にGC注記が付される実務の傾向がありました。特に、債務超過や借入金の契約条項の不履行の状況にある場合には、画一的にGC注記が付されていました。一方、国際財務報告基準では、「継続企業としての存続能力に対して重大な疑問を生じさせるような事象又は状態に関する重要な不確定事項を発見したときは、その不確定事項を開示しなければならない」(IAS第1号第25項)とされ(注2)、継続企業の前提に関する重要な不確定事項(material uncertainty)がある場合に、GC注記が付されます。つまり、GC注記という形式は同じであるにもかかわらず、両者の実際の実務には整合的ではない部分があったわけです。そこで、国際的な調和を図り、投資者により有用な情報を提供するため、我が国の基準においても継続企業の前提に関する重要な不確実性という考え方が新たに導入されました。なお、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」の文言は、財務諸表の表示のルールや国際監査基準との整合性の観点も踏まえ、継続企業の前提に関する監査の実施手続の文脈において、一続きで意味を持つ表現として使用されるものです。
(注1) 厳密には、継続企業の前提に重要な疑義を「抱かせる」事象又は状況と規定されていましたが、金融庁担当者によれば、「生じさせるような」と変更したのは、法令用語としてより現代的で、かつ、ふさわしい表現に改めたものであり、意味・内容を変更するものではない、と解説されています。
(注2) 2008年10月に米国の財務会計基準審議会(FASB)から公表された公開草案(継続企業)においても、ほぼ同等の内容が提案されています。
(2)後発事象の取扱い
貸借対照表日において継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在した場合、従来は、貸借対照表日後において当該事象又は状況が解消されたとしてもGC注記が必要であり、必要に応じて重要な後発事象も開示されていました。
これに対して改正後は、貸借対照表日において継続企業の前提に重要な不確実性が認められたとしても、貸借対照表日後において対応策を講じたことにより当該重要な不確実性が認められなくなればGC注記は不要であり、必要に応じて当該対応策を重要な後発事象として開示します。たとえば、貸借対照表日において債務超過の状況にあって継続企業の前提に重要な不確実性が認められたものの、貸借対照表日後財務諸表提出日までに十分な金額の第三者割当増資を実施することによって債務超過が解消されて当該重要な不確実性が認められなくなった場合、GC注記は不要であり、必要に応じて第三者割当増資を重要な後発事象として開示します。
なお、貸借対照表日後に継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が発生し、対応策を講じてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められ、翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼすときは、重要な後発事象として、以下の事項の注記が必要となります。
- 当該事象又は状況が発生した旨及びその内容
- 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
- 継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる旨及びその理由
ただし、このような後発事象のうち、貸借対照表日において既に存在していた状態で、その後その状態が一層明白になったものについては、GC注記の要否を検討する必要があります。
4. GC注記以外での開示
GC 注記を開示するまでには至らない場合であっても、継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在することもあります。その場合には、上場企業等であれば有価証券報告書の「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」において、当該事象又は状況及びその対応策を記載することが必要となります。なお、GC注記を開示している場合であっても、「事業等のリスク」等における当該開示は必要です。
また、会社法上では、事業報告の「株式会社の現況に関する事項」等において、当該事象又は状況及びその対応策を適切に開示することが望まれます。
5. 監査上の取扱い
GC注記の判断過程が改正されたことに伴い、継続企業の前提に関する監査の流れも一部変更となります。改正の前後で図表化すると、以下のとおりです。
出所:企業会計審議会第19回監査部会資料(一部改変)
(1)対応策
監査・保証実務委員会報告第74号「継続企業の前提に関する開示について」においては、「対応策は、財務諸表作成時現在計画されており、効果的で実行可能であるかどうかについて留意しなければならない」とされ、監査基準委員会報告書第22号「継続企業の前提に関する監査人の検討」(以下、監査基準委員会報告書第22号という)では、「監査人は、対応策が当該事象又は状況を解消し、又は改善するものであるかどうか、及びその実行可能性について検討しなければならない」とされています。
これに対して改正前は、「経営計画等は、財務諸表作成時現在計画されており、かつ、経済合理性があると同時に実行可能性があることが必要である」「経営計画等が、当該事象又は状況を解消あるいは大幅に改善させるものであるかどうか、実行可能なものであるかどうかについて、十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない」とされていました。両者を比較すると、経営計画等には継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況を解消又は大幅に改善することが可能なほどの経済合理性(rationality)が必要でしたが、今後は、対応策が当該事象又は状況を解消又は改善させるほど効果的で実行可能(feasible)であるかどうかに留意するものの、実行可能であることについての蓋然性までは求められないこととなります。
従来の監査実務では、この「経済合理性のある経営計画等」を、継続企業の前提に関して生じている重要な疑義を解消できる確実性の高い経営計画等と解釈する傾向があり、そのような経営計画等が示されない場合には、監査人は監査意見を表明できないとの実務が行われているとの指摘もありました。しかし今後は、経営者から評価及び一定の対応策も示されず、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるか否かを判断する十分かつ適切な監査証拠が入手できなかった場合に、まれな状況ではありますが、監査意見が表明されないケースが生じうることとなります。
(2)継続企業の前提に関する重要な不確実性
継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときにGC注記が必要となるわけですが、当該重要な不確実性は、監査基準委員会報告書第22号において、以下のように説明されています。
継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在しているかどうかについては、当該不確実性がもたらす影響の大きさ及びその発生可能性に基づき、実態に即して判断する。不確実性がもたらす影響の大きさ及びその発生可能性に基づき、財務諸表の利用者が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に理解するために、監査人の判断により、継続企業の前提に関する適切な注記が必要であるとした場合、継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在していることになる。
つまり、財務諸表利用者が企業の状況を適切に理解するためにはGC注記が必要であると判断されるほど重要な不確実性が、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」ということになります。必ずしも明確に定義されているとは言えないかもしれませんが、今回の改正で参考とされている国際財務報告基準においても、重要な不確定事項(material uncertainty)に関する明確な定義はなく、企業の実態に応じて個別具体的に判断することとされています。
6. おわりに
監査人は、経営者による対応策の実行可能性に関して、蓋然性の担保までは求められていないことが明確にされたため、意見不表明は減ることが見込まれます。しかしその一方で、継続企業の前提に関する重要な不確実性という考え方が導入されたとしても、GC注記が急激に減ることは必ずしもないのではないかと考えられます。債務超過等の一定の事実の存在により画一的にGC注記が付されることはなくなるものの、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合に、将来事象である対応策の結果を見通したうえで重要な不確実性が認められないと判断できるのは、あまり多くはないと想像されるためです。
継続企業の前提に関する重要な不確実性は、その定義が明確にされていないことからも分かるように、各社の置かれた状況に応じて実態に即して判断することが必要であり、その「レベル感」は今後の実務の中で醸成されるものと考えられますので、今後の実務の動向には十分な注意が必要であると言えるでしょう。
以上
(参考)
改正された主な関連規定及び基準- <金融庁関係>
-
- 監査基準
- 企業内容等の開示に関する内閣府令
- 企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
- 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について
- <法務省関係>
-
- 会社計算規則
- <日本公認会計士協会関係>
-
- 監査・保証実務委員会報告第74号「継続企業の前提に関する開示について」
- 監査・保証実務委員会報告第75号「監査報告書作成に関する実務指針」
- 監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」
- 監査基準委員会報告書第22号「継続企業の前提に関する監査人の検討」
太陽ASG有限責任監査法人
公認会計士 中野秀俊
text : hidetoshi nakano












