2009年6月30日に、企業会計審議会より「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」(以下、日本版ロードマップという)が公表されました。これにより、我が国においては2010年3月期から一定の上場会社の連結財務諸表について国際財務報告基準(以下、IFRSという)を任意適用できるものとし、2015年又は2016年からすべての上場会社の連結財務諸表についてIFRSを強制適用する方向性が示されました。
また、日本版ロードマップの公表を受けて、6月30日には「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の改正案(以下、改正連結財規(案)という)等が金融庁から公表され、IFRS任意適用に向けての具体的な法改正が進められています。
本稿では、日本版ロードマップの概要を解説するとともに、改正連結財規(案)においてどのように反映されているのか解説したいと思います。なお、本稿の意見に関する部分は筆者の個人的見解であること及び改正連結財規(案)等は今後の議論によって変更される可能性があることを、あらかじめお断りします。
1. 日本版ロードマップ公表までの経過
2008年10月より企業会計審議会・企画調整部会において我が国における国際会計基準の取扱いについて議論されてきましたが、2009年2月4日、同部会から日本版ロードマップ(案)が公表され、4月6日までパブリックコメントに付されました。そこで寄せられたコメント等を踏まえ、6月11日開催の第16回企画調整部会にてさらに検討が加えられ、6月16日に日本版ロードマップが公表されました。さらに、6月30日には企業会計審議会総会において承認され、企業会計審議会の意見書として改めて公表されました。
なお、IFRSのアドプションの動向については、Monthly Report Vol.1からVol.3をご参照ください。
2. IFRSの任意適用について
日本版ロードマップでは、以下のような枠組みでIFRSの任意適用を認めることが提案されています。
(1) 適用するIFRS
国際会計基準審議会(以下、IASBという)が作成したIFRSをそのまま適用し、一部修正ないし除外(いわゆるカーブアウト)はしないとされています。
(2) 適用可能企業
IFRSの任意適用が可能となる企業は、以下の条件のすべてに合致する上場企業(及びその上場子会社等)とされています。
継続的に適正な財務諸表を作成・開示している
IFRSによる財務報告について適切な体制を整備している
IFRSに基づく社内の会計処理方法のマニュアル等を定め、有価証券報告書等で開示している
国際的な財務・事業活動を行っている
さらに、市場において十分周知されている一定規模以上の上場企業等に範囲を拡げていくか否かについて検討するとされています。
(3) 適用する財務諸表
連結財務諸表に対してのみ、IFRSの適用を認めるとされています。
ただし、上場会社の中には連結財務諸表を作成していない会社もあるため、その場合には、日本基準による個別財務諸表に加え、IFRSによる個別財務諸表の追加作成を認めるとされています。
(4) 並行開示
IFRSによる財務諸表と日本基準による財務諸表の並行開示は導入初年度のみ(当該年度及びその前年度の各1年分の開示)とし、かつ、当該年度の日本基準による財務諸表は監査対象外にするとされています。また、導入初年度以後の継続的な並行開示も簡素化し、IFRSと日本基準との重要な差異の注記にとどめるとされています。
(5) 適用時期
2010年3月期の年度の財務諸表から任意適用を認めるとされています。
3. 改正連結財規(案)等について
改正連結財規(案)等は、基本的に、日本版ロードマップにおける提案をそのまま法文化しています。以下では、日本版ロードマップの内容をより具体化した定めがされている部分について解説します。
(1) 指定国際会計基準
国際会計基準(注1)のうち、公正かつ適正な手続の下に作成及び公表が行われたものと認められ、公正妥当な企業会計の基準として認められることが見込まれるものとして金融庁長官が定めるものが、新たに「指定国際会計基準」として定義されました(改正連結財規(案)93条)。具体的には、金融庁告示(案)において、現時点で適用されている国際会計基準、すなわちIFRS1号から8号及びIAS1号から41号まで(一部、欠番を除く)が指定国際会計基準として限定列挙されています。
なお、金融庁告示(案)には含まれていませんが、既に確定していて2009年7月ないし2010年1月から適用される基準についても、2010年3月期においては適用対象となるものと考えられます。また、指定国際会計基準には解釈指針(IFRIC及びSIC)が列挙されていませんが、金融庁担当者の説明(注2)によれば、IASBが作成し、規範力を持った基準であるIFRS及びIASを掲げたものであって、解釈指針であるIFRICは掲げなかったとのことですが、今後の議論の行方を確認する必要があると考えられます。
- (注1) 国際的に共通した企業会計の基準として使用されることを目的とした企業会計の基準についての調査研究及び作成を業として行う団体であって、一定の要件を満たすものが作成及び公表を行った企業会計基準のうち、金融庁長官が定めるものをいい(改正連結財規(案)1条の2第1項ニ(1))、具体的には、IASBが作成し、IASBの名において公表された企業会計の基準とする(金融庁告示(案))
- (注2) 企業会計審議会第16回企画調整部会議事録
(2) 特定会社
国際的な財務活動又は事業活動を行う会社として一定の要件を満たす会社が新たに「特定会社」と定義され、特定会社は指定国際会計基準に準拠した連結財務諸表を作成することができるとされました(改正連結財規(案)1条の2)。なお、特定会社は注記において、特定会社に該当する旨及びその理由を開示する必要があります(改正連結財規(案)94条2号)。
(ア) 連結財務諸表の適正性を確保するための特段の取組み
特定会社は、連結財務諸表の適正性を確保するための特段の取組みを行い、有価証券報告書においてその旨及びその内容を開示する必要があります。具体的な取組み内容としては、IFRSに基づく社内の会計処理方法のマニュアル作成、国際的な会計基準開発への人的・財政的な貢献の状況などが考えられます(注3)。なお、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案(以下、改正開示府令(案)という)によれば、経理の状況の冒頭部分において当該取組みを開示することとなります。
(イ) 指定国際会計基準による連結財務諸表を適正に作成するための体制
特定会社は、指定国際会計基準に関する十分な知識を有する役員又は使用人を置き、当該基準に基づいて連結財務諸表を適正に作成できる体制を整備する必要があります。なお、改正開示府令(案)によれば、経理の状況の冒頭部分において当該整備状況を開示することとなります。
(ウ) 国際的な財務・事業活動の実施
特例会社は、会社、その親会社又はその他の関係会社が、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 外国の法令に基づき、IFRSに準拠した財務諸表を開示している
- 外国金融商品市場の規則に基づき、IFRSに準拠した財務諸表を開示している
- 外国に、資本金20億円以上の連結子会社を有している
なお、国際的な事業展開をしているか否かの判断基準としては海外売上高の割合等も考えられますが、売上高は経済状況等によって変動しやすいという特性があるために資本金が基準とされているのであって、国際的な事業展開を行っていることが一定金額以上の海外子会社があることを意味するわけではないと説明されています(注4)。
- (注3) 平松朗・大橋英樹「IFRS任意適用に係る連結財務諸表規則等の改正案の概要」(週刊経営財務No.2927)
- (注4) 前掲議事録
(3) 並行開示
改正連結財規(案)等に係る経過措置(案)は明文化されていませんが、金融庁から公表されている「IFRS任意適用関係改正の経過措置(予定)の概要」(以下、経過措置の概要という)によれば、導入初年度における並行開示資料は、以下のとおりです。
- IFRSによる連結財務諸表(2期分)及び前期期首の開始貸借対照表(日本基準との調整開示を含む)
- 日本基準による連結財務諸表(2期分。ただし、当期分は監査対象外)
(4) 米国基準適用会社
経過措置の概要によれば、2010年3月期までに米国基準による財務諸表を提出している会社等については、当分の間、引き続き米国基準による提出が認められます。よって、2010年3月期以降に、米国基準による財務諸表を新たに提出することは認められません。
また、米国基準適用会社がIFRSに移行する場合における導入初年度の並行開示資料は、以下のとおりです。
- IFRSによる連結財務諸表(2期分)及び前期期首の開始貸借対照表(日本基準との調整開示を含む)
- 米国基準による連結財務諸表(日本基準で作成した場合との差異に関する注記を含み、2期分。ただし、当期分は監査対象外)
4. IFRSの強制適用
(1) 適用するIFRS
IASBが作成したIFRSをそのまま適用するか、それともカーブアウトするかについては、IFRSの内容等を見極める必要があるとされ、現時点では明確になっていません。
万が一IASBが作成したIFRSに著しく適切ではない部分があり、これを我が国の会計基準として受け入れることができない場合には、当該部分の適用を留保せざるを得ないためです。ただし、現時点では想定はされておらず、また、今後はIFRSの設定に我が国が積極的に関与していくことで、このような状況を回避する努力をしていくことになります。
(2) 適用企業及び財務諸表
上場企業の連結財務諸表を対象とすることとされています。
なお、案の段階ではIFRSを一斉に適用することとされていましたが、確定版では、段階適用とするか一斉適用とするかについては、改めて検討・決定することとされています。ただし、複数の会計基準による財務諸表が我が国の市場において併存することは望ましくないため、併存期間は長くても3年程度とされています。
(3) 個別財務諸表の取扱い
上場企業の個別財務諸表(連結財務諸表を作成していない企業のものを含む)にIFRSを適用するか否かについては、個別財務諸表の開示のあり方も含め、改めて検討することとされています。
また、連結財務諸表を作成していない上場企業について、日本基準による個別財務諸表の作成を引き続き義務付ける場合においても、IFRSによる個別財務諸表の作成が追加的に求められることとなります。
(4) 非上場企業への任意適用
非上場企業によるIFRSの任意適用を認めるか否かについては、改めて検討することとされています。
(5) 適用時期
強制適用の時期は現時点では決定せず、2012年をめどに判断することとされています。
なお、強制適用に当たっては、準備期間として少なくとも3年は実務上必要になると考えられるため、2012年に判断した場合には、2015年又は2016年に適用を開始することとされています。
以上
太陽ASG有限責任監査法人
公認会計士 中野秀俊
text : hidetoshi nakano












