排出量取引制度とその会計処理について

わが国では2009年9月に政権交代が行われたことにより、2020年までに1990年対比で温室効果ガス排出量を25%削減することが表明され、今後の政策に注目が集まっています。一方、2008年10月より排出量取引の国内統合市場の試行的実施(以下、試行実施という)の仕組みの1つとして試行排出量取引スキーム(以下、試行スキームという)が開始されたことに伴い、2009年6月23日に「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第15号)が改正されました。当該改正では試行スキームにおいて必要と考えられる会計処理が明確化されています。

本稿では、京都議定書における考え方と排出量取引に関する会計処理を中心に解説します。なお、本稿の意見に関する部分は筆者の個人的見解であること及び今後のスキームや政策等により、会計処理の変更が行われる可能性があることを、あらかじめお断りします。

1. 排出量取引の概要

(1) 京都議定書

京都議定書は、1997年12月、京都において開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議で採択され、2005年2月に発効しています。この京都議定書では、批准した先進国及び市場経済移行国(注1)に対し、2008年から2012年までの5年間(第1約束期間)の温室効果ガス排出量を1990年対比で削減することを義務付けています。

(注1)ロシア、中東欧諸国、旧ソビエト連邦諸国など、市場経済への移行期にあたる国々。先進国同様、気候変動枠組条約附属書第Ⅰ締約国(以下、附属書Ⅰ国という)として排出量削減目標が課されるが、条約や公文書などで先進国とは区別して用いられる場合がある。

(2) 京都メカニズム

京都議定書では、排出量削減による経済への悪影響を極力軽減すべく、自国の排出削減以外に排出量削減目標を達成するため、いわゆる京都メカニズムとして、排出量取引(注2)、共同実施(JI)(注3)、クリーン開発メカニズム(CDM)(注4)の3つの手法が導入されています。

(注2)Emissions Trading:温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている附属書Ⅰ国間で、排出量の獲得及び移転を行うことができる制度である。

(注3)Joint Implementation:附属書Ⅰ国どうしが共同で排出削減(又は吸収増大)などのプロジェクトを実施し、その結果生じた排出削減量(又は吸収増大量)に基づいて発効されたクレジットの一部又は全部をJI関係国間で分け合う手法である。

(注4)Clean Development Mechanism:附属書Ⅰ国が、非附属書Ⅰ国に対して技術や資金を提供して排出削減(又は吸収増大)などのプロジェクトを実施し、その結果生じた排出削減量(又は吸収増大量)に基づいて発効されたクレジットをCDM関係国間で分け合う手法である。

(3) 京都メカニズムにおける排出量取引

京都メカニズムにおける排出量取引制度の概要は以下のとおりです。

  • 各国には1990年対比で予め定められた排出量の初期割当量(AAU : Assigned Amount Unit)が与えられる。
  • 削減目標以上に排出量削減が行われ総排出量が初期割当量を下回った国は、逆に目標を達成できずに初期割当量を超える排出量となった国に対して余枠を売却することができる。
  • 余枠を他国から購入した国は割当量の増加によって、目標を達成できる。

また、排出量取引の対象は、初期割当量(AAU)、JIによって発行されたクレジット(ERU : Emission Reduction Unit)、CDMによって発行されたクレジット(CER : Certified Emission Unit)、先進国の吸収源活動(植林等)による吸収量(RMU : Removal Unit)の4種類であり、総排出枠は以下のとおりです。

(4) 排出量取引の国内統合市場の試行的実施

試行実施は、CO2に取引価格を付けて、市場メカニズムの活用及び技術開発や削減努力の誘導を行うことによって、CO2排出量を削減するために、2008年10月から開始されたものであり、以下の2つの仕組みにより構成されます。

  • 企業等が削減目標を設定し、その目標の超過達成分(排出枠)や下記のクレジットの取引を活用しつつ、目標達成を行う仕組み(試行スキーム)
  • で活用可能なクレジットの創出、取引

その上で、国内統合市場となるよう、上記の排出枠及びクレジットは、等しく試行スキームの目標達成に充当でき、取引に関する価格指標等が提供されます。

(5) 試行排出量取引スキーム

試行スキームは上記でも説明したように試行実施の仕組みの1つであり、参加企業等が自主的に排出削減目標を設定した上で、自らの削減努力に加えて、その達成のための排出枠・クレジットを取引することにより日本型の排出量取引モデルを検討する試行的な取組みです。試行スキームでは、政府から事前に交付される排出総量目標に相当する排出枠の一部又は事後的に交付される超過達成分に相当する排出枠について、売買することができます。ここで、事前交付の排出枠及び事後清算の排出枠は政府から無償で割当てられることになります(注5)。

なお、参加者の目標設定年度については、自主行動計画において定めている2010 年度の目標を目安として、2008~2012 年度のうち全部又は一部の年度を目標の設定年度(連続する年度に限らない)として任意に選択し、その選択した設定年度ごとに、排出削減目標を設定し、目標達成の確認を行うことになります。

(注5) 政府からの割当てについては、有償割当(オークション方式)と無償割当(グランドファザリング方式及びベンチマーク方式)があり、制度導入時は無償割当が主となり、将来的には有償割当に移行するといわれている。

(6) 取引対象となる排出枠・クレジット

試行スキームにおいて取引対象となる排出枠・クレジットには、以下の3つがあります。

他の企業等の削減目標の超過達成分の排出枠
他の企業等が排出削減目標を超過して達成した場合において、その超過達成分の排出枠についても取引対象となります。
京都クレジット
温暖化対策推進法に基づく算定割当量(排出量)であり、京都議定書で定められた手続により発行され、同議定書の削減目標達成のために用いられるクレジットをいいます。京都クレジットの内容については、上記(3)で説明したとおりです。
国内クレジット
京都議定書目標達成計画に基づき、日本国内で大企業等(自主行動計画参加企業)が技術・資金等を提供して中小企業等(自主行動計画に参加していない者)が行った排出抑制事業による温室効果ガスの排出削減量に対して、国内クレジット承認委員会が認証した排出削減量をいいます。

2. 排出量取引の会計処理

(1) 「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」の改正

2004年11月に企業会計基準委員会より、京都議定書で定められた京都メカニズムにおける排出クレジットの会計処理を明確化する目的で「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第15号)が公表されました。その後、企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」や企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」の公表等に伴う一部改正が2006年7月に行われました。さらに、2008年10月から試行スキームがスタートしたことに伴い、2009年6月23日に改正が行われています。

2009年6月の改正では、従来の排出クレジットを他者から購入又は出資を通じて取得する場合の取扱いに加え、試行スキーム特有である政府から排出枠を無償で取得した場合の会計処理が明確化されています。

(2) 本実務対応報告の対象とする排出クレジットとその性格

本実務対応報告では、京都メカニズムにおけるクレジットが対象であり、CO2換算量で示されます。また、国内クレジットなどの京都メカニズム以外のクレジットについても、本実務対応報告の考え方を斟酌し、会計処理を行います。

排出クレジットの性格は、京都議定書における国際的な約束を各締約国が履行するために用いられる数値であること、国別登録簿においてのみ存在すること、及び、所有権の対象となる有体物ではなく、法定された無形財産権ではないことが京都議定書に由来する特徴として挙げられます。一方、排出クレジットを取得及び売却した場合には有償で取引されることから、財産的価値を有しているといえます。

(3) 会計処理方法

活発な取引が行われる排出クレジットの市場が整備されていない場合には、排出クレジットの取引は事業投資に該当すると考えられ、専ら第三者に販売する目的で取得する場合と、将来の自社使用を見込んで取得する場合とで異なる会計処理が行われます。また、他者から購入する場合と出資を通じて取得する場合の会計処理がそれぞれに存在します。さらに、将来の自社使用を見込んで取得する場合については、試行スキームにおいて排出枠を無償で取得する場合の会計処理が定められています。

なお、活発な取引市場が整備されており、企業が金融投資としての取引を行う場合には、トレーディング目的で保有する棚卸資産として、企業会計基準第9号第15項における会計処理を行います。

専ら第三者に販売する目的で排出クレジットを取得する場合の会計処理

専ら第三者に販売する目的で排出クレジットを取得する場合の会計処理を、他者から購入する場合と出資を通じて取得する場合に分けて示すと以下のとおりとなります。

  (a)他者から購入する場合 (b)出資を通じて取得する場合
( )契約締結時 仕訳なし 同左
( )支出時(排出クレジット取得前)

「前渡金」とする。ただし、取得前に売却できる場合には「棚卸資産」とすることができる。

個別財務諸表上、金融商品会計基準に従って会計処理し、「投資有価証券」、「関係会社株式」、「(関係会社)出資金」とする。なお、当該出資が排出クレジットの長期購入契約の締結及び前渡金支出と経済実質的には同じと考えられるものである場合には、(a)に同じ。

また、排出クレジットが分配された場合は、株主が現金以外の財産の分配を受けた場合と同様であると考えられるため、企業会計基準第7 号第52 項及び第144 項に準拠して会計処理する。

( )排出クレジット取得前の期末評価

取得原価による。ただし、明らかに回収可能である場合を除き、評価減の要否の検討を行う。

市場価格のない株式に該当する場合、個別財務諸表上、取得原価による。ただし、減損処理の適用を検討する。

なお、当該出資が排出クレジットの長期購入契約の締結及び前渡金支出と経済実質的には同じと考えられるものである場合には、通常の商品等の購入と同様に「前渡金」として会計処理するため、(a)に同じ。

( )排出クレジット取得時

「棚卸資産」の取得として処理する。

( )排出クレジット取得後の期末評価

取得原価による。ただし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価との差額は当期の費用として処理する。

( )販売時

「棚卸資産」の販売として処理する。

出所:実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」[付録1](一部改変)
将来の自社使用を見込んで排出クレジットを取得する場合の会計処理

将来の自社使用を見込んで排出クレジットを取得する場合の会計処理を、他者から購入する場合と出資を通じて取得する場合に分けて示すと以下のとおりとなります。

  (a)他者から購入する場合 (b)出資を通じて取得する場合
( )契約締結時

仕訳なし

同左

( )支出時(排出クレジット取得前)

無形固定資産を取得する前渡金であることから、「無形固定資産」又は「投資その他の資産」の区分に当該前渡金を示す適当な科目で計上する。

個別財務諸表上、金融商品会計基準に従って会計処理し、「投資有価証券」、「関係会社株式」、「(関係会社)出資金」とする。

なお、当該出資が排出クレジットの長期購入契約の締結及び前渡金支出と経済実質的には同じと考えられるものである場合には、(a)に同じ。

( )排出クレジット取得前の期末評価

取得原価による。ただし、固定資産の減損会計が適用される。減損処理にあたっては、他の資産とのグルーピングは適当でないと考えられる。

市場価格のない株式に該当する場合、個別財務諸表上、取得原価による。ただし、減損処理の適用を検討する。

なお、当該出資が排出クレジットの長期購入契約の締結及び前渡金支出と経済実質的には同じと考えられるものである場合には、(a)に同じ。

( )排出クレジット取得時

「無形固定資産」又は「投資その他の資産」の取得として処理する。

( )排出クレジット取得後の期末評価

取得原価による(減価償却は行わない)。ただし、固定資産の減損会計が適用される。減損処理にあたっては、他の資産とのグルーピングは適当でないと考えられる。

( )第三者への売却時

「無形固定資産」又は「投資その他の資産」の売却として処理する。

( )自社使用(償却目的による政府保有口座への排出クレジットの移転)時(注6)

原則として「販売費及び一般管理費」の区分に適当な科目で計上する。売上高に対応する商品等の仕入又は製造に要する原価については、「売上原価」又は「製造原価」とする。

(注6)実際に政府保有口座に移転していなくとも移転することが確実と見込まれる場合や、第三者へ売却する可能性がないと見込まれる場合には費用とすることが適当である。

出所:実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」[付録2](一部改変)
無償で取得する場合

試行スキームにおいて、政府から排出枠を無償で取得する場合の会計処理を示すと以下のとおりとなります。

  (a)事後清算により排出枠を取得する場合 (b)事前交付により排出枠を取得する場合
( )排出枠の事前交付時 ―― 仕訳なし
( )第三者への売却時(各年度の目標達成確認前)(注7) ――

仮受金その他の未決算勘定として計上する。

( )各年度の目標達成確認時 仕訳なし
( )無償で取得した排出枠及びボローイングした排出枠の償却時(注8) 仕訳なし
なお、購入した排出枠の償却時については、の()を参照のこと。
( )第三者への売却時(通算の目標達成確認前)(注7) 仮受金その他の未決算勘定として計上する。
( )スキームに参加する複数年度を通算して目標達成が確実と見込まれた時 ()又は()で計上した仮受金その他の未決算勘定を利益に振り替える。(注9)

(注7)無償で取得した排出枠の他に、他者から購入した排出枠も保有している場合には、まず他者から購入した排出枠を売却したものとみなす。

(注8)無償で取得した排出枠の他に、他者から購入した排出枠も保有している場合には、まず無償で取得した排出枠を償却したものとみなす。

(注9)目標未達となり費用が発生する場合には、仮受金その他の未決算勘定を費用の減額に充てる。

出所:実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」[付録2](一部改変)
(4) 本実務対応報告の適用時期

2009年6月改正の本実務対応報告は、公表日を含む事業年度から適用となります。

(5) 税務上の取扱い

京都メカニズムを活用したクレジットに係る取引として、内国法人が他の者から当該クレジットを取得(購入)し、償却(自社使用)を目的として政府保有口座に移転又は内国法人等に売却(有償譲渡)する場合、法人税及び消費税は次のように処理します。

法人税

内国法人が、償却を目的として排出クレジットを取得(購入)し、当該クレジットを我が国の国別登録簿における同法人の保有口座から政府保有口座に移転した場合には、原則として、当該クレジットが政府保有口座に記録された日を含む事業年度において、当該クレジットの価額に相当する金額を国等に対する寄附金として、損金の額に算入します。

この場合における当該クレジットの価額とは時価をいい、当該クレジットが政府保有口座に記録された日に近い売買実例等を参考として適正に算定することとなります。ただし、売買実例の把握が容易でないこと等により時価の算定が困難である場合には、当該内国法人の帳簿価額を当該クレジットの価額として取扱います。

なお、内国法人が、仮に転売を目的としてクレジットを取得(購入)し、これを他の者に売却(有償譲渡)した場合には、原則として、会計処理と同様に棚卸資産の譲渡として扱い、その売却により生じた損益の額を、その確定した日を含む事業年度の損金又は益金の額に算入するになります。

消費税

内国法人が他の内国法人にクレジットを有償譲渡した場合には、当該取引は消費税の課税の対象となります。一方、内国法人による他の内国法人からのクレジットの有償取得については課税仕入に該当し、仕入税額控除の対象となります。

また、内国法人が外国法人にクレジットを有償譲渡する場合には、当該クレジットは消費税法施行令第6条第1項第5号に掲げる資産に準ずるものとして、同令第17条第2項第6号の規定により輸出免税が適用されます。

なお、内国法人が外国法人からクレジットを有償で取得する場合は国外取引となり、消費税の課税の対象とはなりません。したがって、当該内国法人においては、当該クレジットの取得について仕入税額控除することはできません。

(6) 海外での会計処理の状況

排出量取引制度は、EU、米国、カナダ及びオーストラリアなど各国で実施されています。

EU及び米国での排出量取引の会計基準の現状

EUでは、2005年1月にEU域内で共通の排出量取引市場として機能するEU-ETS(The EU Emissions Trading Scheme)が創設され、企業はキャップ&トレード方式の排出量取引を実施しています。これに伴い、キャップ&トレード方式のスキームにおける排出量取引を国際会計基準上でどのように適用するかについての検討が、2005年3月にIFRIC3 ”Emission Rights”で実施されましたが、IFRIC3は2005年5月にIASBにより撤回されたため、現状として会計基準がない中でEU-ETSが行われています。

また、米国では2003年EITA(Emerging Issues Task Force), EITF Issues03-14, Participants’ Accounting for Emission Allowance under a “Cap and Trade Program”において検討が行われましたが、2003年11月に議題から外されています。

IFRSにおける今後の排出量取引の対応

IASBでは、FASBとの共同プロジェクトとして、排出量取引に係る会計基準の公開草案を2010年第2四半期に公表し、2011年上期をめどに確定版を公表することを予定しています。その中で、無償交付の排出枠の当初認識時の会計処理については、資産の認識と公正価値による測定及び削減義務を排出枠に対する負債として認識する案が暫定的に合意されています。

(7) 我が国における今後の会計上の課題

試行スキームにおいては、企業ごとのCO2削減義務は課されていません。したがって、CO2の削減が義務化された場合には、会計処理が変更される可能性があります。特に地球温暖化防止は、1国のみの単独の活動ではなくグローバルな活動であるため、排出量取引制度自体も統一化が図られることが予想され、一方で、IFRSとのコンバージェンスによる会計基準の統一化も同時に行われるため、今後の実務の動向には十分な注意が必要といえるでしょう。

以上

【参考文献】

環境省「排出削減クレジットにかかる会計処理検討調査事業」(2007年3月15日)

環境省「排出量取引の国内統合市場の試行的実施について」(地球温暖化対策推進本部2008年10月21日決定)

内閣官房、経済産業省、環境省「試行排出量取引スキーム実施要領」(試行排出量取引スキーム運営事務局2009年3月26日改定)

太陽ASG有限責任監査法人

公認会計士 樹神 祐也
text : yuya kodama