1. はじめに
近年、日本の会計基準とIFRS(国際財務報告基準)との差異を縮小することを目的としたコンバージェンスの一環として、多くの会計基準等が公表、改正されています。
本稿では、2011年3月期から適用される以下の会計基準のうち、多くの企業において検討すべき事項が多いと思われる「資産除去債務」と「セグメント情報」について、その会計基準等の概要を解説するとともに、会計基準等の適用に際しての検討事項や留意事項について解説します。
<2011年3月期から適用される会計基準等>
| 区分 | 会計基準等 |
|---|---|
| 棚卸資産 | 棚卸資産の評価に関する会計基準(改正企業会計基準第9号) |
| 資産除去債務 | 資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号) 資産除去債務に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第23号) |
| セグメント情報 | セグメント情報等の開示に関する会計基準(企業会計基準第17号) セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第20号) |
| 企業結合・ 連結財務諸表等 |
企業結合に関する会計基準(企業会計基準第21号) 事業分離等に関する会計基準(改正企業会計基準第7号) 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(改正企業会計基準適用指針第10号) 「研究開発費等に係る会計基準」の一部改正(企業会計基準第23号) 連結財務諸表に関する会計基準(企業会計基準第22号) 持分法に関する会計基準((改正)企業会計基準第16号) 持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い(実務対応報告第24号) |
| 包括利益(注) | 包括利益の表示に関する会計基準(案)(企業会計基準公開草案第35号) |
(注)「包括利益の表示に関する会計基準(案)」は公開草案であり、2010年4月1日以降開始する事業年度の年度末からの適用が予定されている。また、包括利益の導入により、以下の会計基準等の改正案も公表されている。
- 「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)
- 「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)
- 「株主資本変動計算書に関する会計基準」(企業会計基準第6号)
- 「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)
- 「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第9号)
なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。
2. 資産除去債務に関する会計基準
有形固定資産の除去に関して将来発生する負担を債務として資産除去債務として計上し、これに対応する除去費用を有形固定資産の帳簿価額に加算する処理が求められることとなります。
(1) 主な内容
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいいます。
資産除去債務は、それが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来支出(キャッシュ・フロー)を見積り、割引後の金額(割引価値)で算定します。
資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加算します。資産計上額は減価償却を通じて残存耐用年数にわたり費用配分され、負債計上額に対する時の経過による調整額(利息費用)は発生時の費用として処理されます。
(2) 適用初年度の会計処理
適用初年度においては、期首時点で算定された資産除去債務と、既存資産の帳簿価額に加算された除去費用(発生時の資産除去債務の額から、その後の減価償却相当額を控除した額)との差額を、原則として特別損失に計上します。
以下では、「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」(以下、資産除去債務適用指針という)設例1を参考に、適用初年度(2011年3月期)の会計処理を解説します。
前提条件甲社は、2008年4月1日に設備Xを取得し、使用を開始した。当該設備の取得原価は10,000、耐用年数は5年であり、甲社には当該設備を使用後に除去する法的義務がある。甲社が当該設備を除去するときの支出は1,000と見積られている。
資産除去債務は取得時にのみ発生したものとし、甲社は当該設備について残存価額ゼロの定額法により減価償却を行っている。割引率は3.0%とする。
会計処理-
- ア)期首時点における資産除去債務の負債計上
-
期首時点において設備Xの残存耐用年数は3年であり、資産除去債務として負債計上すべき金額は、除去に要する将来キャッシュ・フローを割引計算することにより求められます。
資産除去債務計上額 = 1,000 / (1.03)3 = 915 - イ)適用初年度の期首における既存資産の帳簿価額に加算する除去費用
-
まず、資産除去債務の発生時において計上すべき、除去に要する将来キャッシュ・フローの割引価値を計算します。
当初の資産除去債務計上額 = 1,000 / (1.03)5 = 863 (Aとする)Aは設備Xの取得時において設備Xの帳簿価額に加算すべき金額となります。
次に、当該金額に、取得日以降、期首までの減価償却相当額を計算します。
期首までの減価償却相当額 = 863 ÷ 5年(耐用年数) × 2年(経過年数) = 345 (Bとする)AからBを控除した金額が、適用初年度の期首において資産Xの帳簿価額に加算する除去費用となります。
資産Xの帳簿価額に加算する除去費用 = 863 - 345 = 518 - ウ)特別損失の計上
-
上記にて計算した期首時点における資産除去債務の計上額と資産Xの帳簿価額に加算する除去費用の差額を、特別損失として計上します。
上記 ア)~ ウ)までの仕訳をまとめると以下のようになります。
有形固定資産 518 
資産除去債務 915 特別損失 397
(3) 検討事項
適用初年度を迎えるに当たって検討しなければならない事項としては、たとえば以下のようなものが考えられます。
資産除去債務の範囲の検討-
「資産除去債務に関する会計基準」(以下、資産除去債務会計基準という)では、資産除去債務の対象は「法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」とされており、「この場合の法律上の義務及びそれに準ずるものには、有形固定資産を除去する義務のほか、有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務も含まれる」とされています。
このことから、以下のような費用については資産除去債務の対象範囲に含まれると考えられ、該当する有形固定資産がないかを検証する必要があります。
- ア)原状回復費用、撤去費用
定期借地権契約で賃借した土地の上に建設した建物等の除去が要求されている場合や、建物等の賃貸借契約において内部造作等の除去が要求されている場合は、当該原状回復費用は資産除去債務に該当すると考えられます。定期借地権契約や建物等の賃貸借契約の契約内容や現状の利用状況を把握し、資産除去債務として認識する必要があるものがないかを確かめておく必要があります。
- イ)有害物質の解体・除去費用
たとえばアスベストを含む建物を除去する時には、「石綿障害予防規則」等により、周辺住民や従業員の健康被害対策等、アスベストの飛散を防止するための対策が求められています。このような資産を除去するに際は、建物そのものの除去費用のほかにアスベスト対策のための追加費用が発生しますが、当該追加費用は資産除去債務に該当すると考えられます。
また、賃借している土地に原状回復義務があり、当該土地に土壌汚染が発生している場合、当該土壌汚染を回復する費用についても資産除去債務として認識する必要があります。
アスベスト等の有害物質が使用されている建物や土壌汚染が発生している土地がないかを確認するとともに、該当する建物等がある場合、その除去に際し発生するコストの見積りを行うことが必要と考えられます。
資産除去債務の計上の要否の検討-
資産除去債務は資産除去債務の発生時に計上します。資産除去債務の計上にあたっては、その発生時に当該債務の金額を合理的に見積ることが必要になりますが、逆に、合理的な見積りができない場合は、その見積りができるようになった時点で資産除去債務を計上する、つまり、発生時点では資産除去債務を計上しないことになります。
ここで、「合理的な見積りができない場合」とは、資産除去債務適用指針において以下のように記載されており、極めて限定的に解されているものと考えられます。
- 資産除去債務を合理的に見積ることができない場合とは、決算日現在入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積りを行ってもなお、合理的に金額を算定できない場合をいう
- 資産除去債務の履行時期や除去の方法が明確にならないことなどにより、その金額が確定しない場合でも、履行時期の範囲及び蓋然性について合理的に見積るための情報が入手可能なときは、資産除去債務を合理的に見積ることができる場合に該当する
資産除去債務適用指針の設例8には「合理的な見積りができないため資産除去債務を計上していない場合」が例示されています。本設例では、「本社オフィスの不動産賃借契約に基づき、オフィスの退去時における原状回復に係る債務を有しているが、当該債務に関連する賃借資産の使用期間が明確でなく、将来本社を移転する予定もないこと」を理由として、資産除去債務を合理的に見積ることができないとしています。
設例を参考に考えれば、「利用している賃貸不動産からの移転する計画がないこと」等を理由とし、合理的な見積りができないものとして、資産除去債務を認識しないことができると考えられますが、一方で、資産除去債務適用指針では「すべての証拠」を勘案することが求められています。中長期の経営計画との整合性や人員計画、賃貸不動産の設備の耐用年数等の要素を十分に勘案した上で、「合理的な見積りができない」との判断する必要があります。実務的には外部監査人との協議も必要になるものと思われます。
その他の会計基準・会計処理方法の検討-
資産除去債務の対象となる資産を把握する過程において、利用を停止し、保管している有害物質(PCB等)が発見される場合も想定されます。また、上述した土壌汚染については、土壌汚染は認められるものの、通常の使用ではなく、異常な使用によって発生した場合や、自社所有の土地に土壌汚染が認められるものの、その汚染物質の除去までは法律で求められていないケースなども想定されます。
上記のような場合は、資産除去債務の要件には該当しませんが、たとえば、自発的な対策を計画している場合は、別途引当金を計上する等の会計処理を検討する必要があると考えます。また、通常の使用ではなく、異常な使用によって何らかの債務を負うことになった場合は、資産除去債務ではなく、引当金の計上や、減損損失の計上の要否を検討する必要があります。
3. セグメント情報等の開示に関する会計基準
セグメントを開示する方法として、「マネジメント・アプローチ」が採用されました。
(1) 主な内容
マネジメント・アプローチとは、マネジメント(企業の最高意思決定機関)が経営上の意思決定や業績を評価するために使用する事業の構成単位に関する情報を提供しようとするものです。
従来のセグメント情報は、連結財務諸表を分解することにより作成されていたものと考えられますが、マネジメント・アプローチにおいては、経営者の意思決定や業績評価に利用されている内部的な情報を集約することで作成されるものといえます。
(2) 適用初年度における留意点
適用初年度においては、原則として適用初年度の前年度までの取扱いにより開示したセグメント情報とあわせて、「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下、セグメント情報会計基準という)に準拠して作り直した前年度のセグメント情報を開示することに留意する必要があります。
(3) 検討事項
報告セグメントの決定-
セグメント情報の開示において、報告すべきセグメント(報告セグメント)は以下のフローにより決定されます。
- 事業セグメントを識別する
- 集約基準により事業セグメントを集約する
- 集約されたセグメントから量的基準を満たす報告セグメントを決める
- 経済的特徴が概ね類似しているかなどを検討し、事業セグメントを結合する
- 報告セグメントの外部顧客への売上高合計が75%になるまで事業セグメントを追加し、最終的な報告セグメントを決定する。
マネジメント・アプローチは、経営者の意思決定や業績評価に利用されている内部的に利用されている情報から作成することになります。内部的な情報を基礎とした情報を開示することは、企業の経営管理情報が外部に開示されることとなり、事業戦略上の障害となるという見方もありますが、財務諸表利用者に対し、経営者が利用する情報を提供し、経営者の視点から企業を理解できる情報を提供することは、企業の外部評価を高めることにつながるとも考えられます。
セグメント情報会計基準においても、マネジメント・アプローチの長所として「財務諸表利用者が経営者の視点で企業を見ることにより、経営者の行動を予測し、その予測を企業の将来キャッシュ・フローの評価に反映することが可能になる。」と記載され、またその長所を重視していると記載されています。
報告セグメントの決定にあたっては、報告セグメントが「経営者からの視点から企業を理解できる情報を提供しているか」を十分に考慮し、決定することが必要と考えます。
セグメント上の開示項目の検討-
セグメント情報として開示が必要な項目はセグメント情報会計基準で示されていますが、上述のとおり、報告セグメントの単位はマネジメント・アプローチにより決定され、開示は「事業セグメントに資源を配分する意思決定を行い、その業績を評価する目的で、最高経営意思決定機関に報告される金額に基づいて行わなければならない」とされています。また、損益に関する開示については、報告セグメントの損益の合計額と損益計算書の損益計上額(損益計算書における営業利益、経常利益等の段階損益)との差異について、差異調整に関する事項を開示することが求められています。
ここで、企業が自社の事業の業績を評価する際に、独自の指標、たとえばEBITDAや銀行業における業務純益等、その他独自の指標を採用している場合、開示されるセグメント利益と財務会計上の損益と差異が発生しますので、当該差異について適切に調整(開示)する必要があります。
マネジメント・アプローチによるセグメント情報の開示は、企業において利用されている業績評価の指標自体を変更することは求めていません。しかし、財務会計上の損益との差異について合理的な調整が困難な場合、利用している業績評価の指標についての見直しを検討する必要があると考えます。
IR対応-
マネジメント・アプローチの採用により、セグメント情報として開示される情報は、企業の意思決定や業績評価に利用される情報に基づき作成されます。このことから、セグメント情報として開示される情報は、事業計画と整合的である必要があると考えられます。
上場企業等においては、決算説明会等のIR活動において、セグメント情報を含む過去の経営成績である決算情報と今後の事業計画について説明していると思います。セグメント情報の開示に当たっては、過去の経営成績としての観点からのみならず、事業計画の説明という将来情報を提供するという観点からも作成する必要があると考えられます。
4. おわりに
本稿で解説した2つの会計基準は、いずれもIFRSとの差異を縮小することを目的としたコンバージェンスの一環として公表されたものです。IFRSは原則主義であり、詳細なルールは作られないと言われていますが、今回取り上げた資産除去債務やセグメント情報の開示についても詳細なルールは定められてなく、多くが企業の判断に委ねられます。
企業内において、十分に検討するとともに、早い段階で外部監査人に相談することも必要と考えます。
以上
太陽ASG有限責任監査法人
公認会計士 石井雅也
text : masaya ishii












