2010年3月期の決算留意事項

3月決算会社にあっては、期末決算を見据えた最終準備段階に入っていると思われます。

近年、日本の会計基準とIFRS(国際財務報告基準)との差異を縮小することを目的とした両会計基準のコンバージェンスの一環として、多くの会計基準等が公表、改正されていることは前号で解説したとおりですが、前号では、2011年3月期から適用される会計基準等に関する検討事項を取り扱ったため、本稿では、この2010年3月期の期末から適用される以下の会計基準等について、その会計基準の概要を解説するとともに、実務上の留意事項について解説します。

<2010年3月期の期末から適用される会計基準等>
区分 会計基準等
金融商品 金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号(平成20年3月最終改正))
金融商品の時価等の開示に関する適用指針(企業会計基準適用指針第19号)
賃貸等不動産 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準(企業会計基準第20号)賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第23号)
退職給付会計 「退職給付に係る会計基準」の一部改正(その3)(企業会計基準第19号)

なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。

1. 金融商品の時価等の開示

金融取引を巡る環境が変化する中で、金融商品の時価情報に対するニーズが拡大していることを踏まえて、従来も開示されていた有価証券やデリバティブ取引だけではなく、すべての金融商品についてその状況や時価等に関する事項の開示の充実が図られました。

(1) 主な内容
  • 原則としてすべての金融商品が開示対象となります。
  • 開示内容は、金融商品の状況に関する事項(定性的な情報)と金融商品の時価等に関する事項(定量的な情報)となります。
  • 金融商品の状況に関する事項(定性的な情報)は以下を注記します。
    • (a)金融商品に対する取組方針
    • (b)金融商品の内容及びそのリスク
    • (c)金融商品に係るリスク管理体制
    • (d)金融商品の時価等に関する補足説明
  • 金融商品の時価等に関する事項(定量的な情報)は以下を注記します。
    • (a)原則として金融商品の貸借対照表科目ごとに、貸借対照表計上額、時価及びそれらの差額並びに時価の算定方法
    • (b)有価証券に関して、上記(a)の事項に加え、保有目的区分ごとの時価等
    • (c)デリバティブ取引に関して、上記(a)の事項に加え、取引の種類ごとの時価等
    • (d)金銭債権及び満期のある有価証券について償還予定額を一定期間ごとに区分した金額
    • (e)社債、借入金等の有利子負債について返済予定額を一定期間ごとに区分した金額
    • (f)金銭債務に関して、リスク・フリー・レート又は約定金利に金利水準の変動のみを反映した利率で割り引いた金額(ただし任意開示)
(2) 実務上の留意事項
具体的な開示対象範囲について

原則としてすべての金融商品を対象とするものであることから、従来開示されていた有価証券やデリバティブ取引だけではなく、現金及び預金、受取手形及び売掛金、貸付金、リース債権、ゴルフ会員権、差入預託保証金などの金銭債権、支払手形及び買掛金、借入金、社債、リース債務などの金銭債務も対象となることに留意が必要です。

なお、敷金は、契約満了時に返還請求権が発生する部分については対象範囲となりますが、敷金のうち返還されない部分については金融商品に該当しないため対象にはなりません。また、保険契約は金融商品ではないため、満期返戻金のある保険契約の積立金についても対象にはなりません。

一方、オフバランス項目である当座貸越契約及び貸出コミットメント及び債務保証契約については金融商品に該当するため対象範囲に含められます。

開示対象範囲の重要性について

原則として全ての金融商品が対象となりますが、重要性の乏しいものについては注記を省略することができます。定性的な情報と定量的な情報は両方の記載があって十分な意味をもつと考えられることから、定性的な情報は定量的な情報が記載されている範囲において記載すれば足りるものと考えられます。

当該重要性に関しては、具体的な数値基準は定められていないため、社内で重要性に関する基準を定めたうえで、外部監査人との協議が必要になるものと考えられます。

この点、貸借対照表上、「その他」に含められている項目の開示を妨げるものではないとされていることから、貸借対照表上独立掲記されていない項目については、注記を省略することができると考えられます。重要性の判断基準は、連結財務諸表の独立掲記の基準(総資産額又は負債・純資産合計額の100分の5)とは必ずしも同一ではないと考えられていますが、一つの目安として考えることができるものと思われます。したがって、独立掲記している科目について重要性がないとするには相当の理由が必要と考えられ、独立掲記の基準は超えていないものの、独立掲記している科目については、その重要性を個別に判断する必要があります。なお、連結財務諸表を作成していない会社の場合には、上記独立掲記の基準は、総資産又は負債・純資産合計額の100分の1となりますので、ご留意ください。

金融商品の状況に関する事項(定性的な情報)の注記について
(a)金融商品に対する取組方針

金融資産であれば資金運用方針、金融負債であれば資金調達方針及びその手段(内容)並びに償還期間の状況等を記載します。

また、金融資産と金融負債の間、又は金融商品と非金融商品との間に重要な関連がある場合には、その概要を記載します。具体的には、借入金に係る金利変更リスクのヘッジのため金利スワップを用いているケース(金融商品間に重要な関連がある場合)、設備投資目的に長期借入を行っているケース(金融商品・非金融商品間に重要な関連がある場合)などが適用指針の開示例で示されています。

さらに、金融商品の取扱いが主たる業務である場合には、当該業務の概要を記載する必要があります。

これらの金融商品に対する取組方針に関しては、連結グループとして規程類を整備する必要があります。

(b)金融商品の内容及びそのリスク

金融商品の内容としては、取り扱っている主な金融商品の種類やその説明を記載します。金融商品のリスクには取引相手先の契約不履行に係るリスク(信用リスク)や市場価格の変動に係るリスク(市場リスク)、支払期日に支払いを実行できなくなるリスク(資金調達に係る流動性リスク)が含まれます。

今回の改正で特徴的な事項として、信用リスクに関してある企業集団、業種や地域などに信用リスクが集中している場合にはその概要を記載することとされており、また借入金などの金融負債について、特定の企業又は企業集団に著しく集中している場合には、その概要を記載することが望ましいとされていますので、ご留意ください。

さらに、リスクが高い現物の金融商品やデリバティブ取引の対象物の価格変動に対する当該取引の時価の変動率が大きい特殊なもの(いわゆるレバレッジの利いたデリバティブなど)に関してもその概要を記載する必要がありますが、これは従来より財務諸表等規則ガイドラインに設けられていたものであり、特に改正されたものではありません。

その他、デリバティブ取引に関して、取引の内容及び取引に係るリスクに加え、当該取引の利用目的も記載するものとされており、ヘッジ会計を適用している場合には、ヘッジ手段とヘッジ対象、ヘッジ方針及びヘッジの有効性の評価方法に係る説明が必要な点も従来と相違はありません。

(c)金融商品に係るリスク管理体制

金融商品に係るリスク管理方針、リスク管理規程及び管理部署の状況、リスクの減殺方法又は測定手続等を記載します。

今回の改正で特徴的な事項として、上記のようにリスクの減殺方法又は測定手続も含めることとされていることと、特に総資産及び総負債の大部分を占める金融資産及び金融負債の双方が事業目的に照らして重要であり、市場リスク変数(金利、為替、株価等)の変動に対する当該金融資産及び金融負債の感応度が重要な企業(一般的には銀行や証券会社、ノンバンクなどが想定されている)については、市場リスクに係る定量的なリスク情報を注記する必要があることがありますので、ご留意ください。

なお、この市場リスクに係る定量的なリスク情報の注記については、2012年3月31日以後終了する事業年度の年度末から開示できるものとされており、1年間の適用猶予措置が設けられています。

(d)金融商品の時価等に関する補足説明

従来、デリバティブ注記に記載されていた「取引の時価等に関する事項に係る補足説明」などに該当する事項が記載されることになると考えられます。時価として「合理的に算定された価額」を用いている場合には、その旨等を注記します。

金融商品の時価等に関する事項(定量的な情報)について
(a)原則的な注記事項

原則として金融商品の貸借対照表の科目ごとに、貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価、貸借対照表計上額と貸借対照表日における時価の差額、時価の算定方法を注記します。

このとき、貸借対照表上で「その他」に含められている項目の開示を妨げるものではないとされているため、その注記は任意と考えられますが、有価証券又はデリバティブ取引により生じる債権又は債務については、「その他」に含められていても注記が必ず必要とされることには留意が必要です。

なお、時価を把握することが極めて困難と認められるため、時価を注記していない金融商品については、当該金融商品の概要、貸借対照表計上額及びその理由を記載する必要があります。

(b)有価証券の時価等

従来から保有目的ごとの区分に応じて時価等及び売却額等を注記することとされていますが、これらの注記事項は従来と相違ありません。

また、減損処理を行った場合には、その旨及び減損処理額の注記が必要とされていますが、これは現在の慣行を明文化したものです。

なお、従来の時価評価されていない有価証券の注記については、記載箇所が金融商品に関する注記へ移動していますが、今回の改正で時価をもって貸借対照表価額とする有価証券の例外の定めが、「市場価格のないもの」から「時価を把握することが極めて困難と認められるもの」に変更になっている点には注意する必要があります。これにより、市場価格のない株式(一定の種類株式を除く)に関しては、時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品に該当することとされており、従来と相違ありませんが、市場価格がない債券に関して、将来キャッシュ・フローが約定されており合理的な時価が算定できる場合には時価評価する必要があるため、この点には注意が必要です。

(c)デリバティブ取引の時価等

今回の改正で特徴的な事項として、ヘッジ会計が適用されていないものに加えて、ヘッジ会計が適用されているものも一律に時価等の開示が必要とされていることがあります。ヘッジ会計が適用されているものに関しては、貸借対照表日における評価損益の額の記載は不要ですが、ヘッジ会計の方法、内容等ヘッジ会計の状況が明瞭に示されるように注記することが必要とされていることに留意が必要です。

また、金利スワップの特例処理、為替予約等の振当処理については、デリバティブ取引の時価をヘッジ対象の時価に含めて開示できるものとされていますが、その場合には、その旨を付記する必要があると考えられます。

(d)金銭債権等の償還予定額の注記

これは、従来、満期のある有価証券の注記とされていたものが、金銭債権にも拡大されたもので、内容に相違はありません。なお、金銭債権の中に、破産更生債権など償還予定額・時期が見込めないものがあり、記載に含めていないものがある場合には、その旨及びその金額を注記することが適当と考えられます。

(e)有利子負債の返済予定額の注記

社債、長期借入金及びリース債務などの有利子負債については、返済予定額の合計額を一定の期間に区分して注記する必要があります。なお、同等な情報が附属明細表で開示されている場合には、その旨の記載を行った上で、当該開示を省略できます。

(f)金銭債務の時価の開示(任意開示)

金銭債務については、時価情報に加えて、約定金利に金利水準の変動のみを反映した利子率(当初契約時点で信用リスクを固定した割引率)で割り引いた金銭債務の金額、又は無リスクの利子率(リスク・フリー・レート)で割り引いた金銭債務の金額を開示することができるものとされています。この注記を行った場合には、いずれの時価を開示したケースにあっても、当該金額の算定方法及び時価との差額について補足説明を行うものとされています。

時価の算定について

時価とは、公正な評価額をいい、市場価格がある場合には「市場価格に基づく価額」、市場価格がない場合には「合理的に算定された価額」をいいます。今回の改正により、時価の算定で問題となるのは、新たに開示対象とされた金銭債権債務に関する「合理的に算定された価額」と考えられますが、例えば、科目別に以下のような算定方法が挙げられます。

なお、以下のように現預金、金銭債権債務については、短期間で決済される場合には、帳簿価額を時価とすることができると考えられますが、短期間とはどのくらいの期間を指すのかが問題となります。適用指針の開示例では1年という記載が見られるものの、「金融商品に関するQ&A」Q19には、投資信託及び合同運用の金銭の信託のうち時価評価しなくても実務上の弊害がないものとして「短期間(おおむね3ヵ月以内)に運用成果が分配等されること」と記載されており、少なくとも、3ヵ月以内に決済される場合には「短期間」と判断して問題ないものと考えられます。また、1年としても時価と帳簿価額の差額に重要な影響を与えないという状況であれば、1年を「短期間」と判断することも考えられます。各企業でその実態に応じて決定することが必要です。

(a)現金預金

現金預金については、一般的には短期間で決済されるため、時価は帳簿価額にほぼ等しいことから、帳簿価額によることができます。

満期のある預金(長期の定期預金等)については、期間に基づく区分ごとに、新規の預金を行った場合の預金金利で割り引いた現在価値を時価とする等の方法が考えられます。

(b)受取手形及び売掛金・貸付金

短期間で決済される場合には、時価は帳簿価額にほぼ等しいことから、帳簿価額によることができます。そうでない場合には、時間価値及び信用リスクを加味して現在価値を計算し、時価を算出する必要があります。信用リスクを加味する方法としては、将来の回収見込額に反映させる方法と割引率に反映させる方法が考えられます。将来の回収見込額に反映させる方法としては、例えば、一般債権の貸倒実績率を加味して将来の回収見込額の期待値を計算し、これをリスク・フリー・レート(回収期間と同一の期間の国債の利回り)で割り引く方法等が考えられます。また、割引率に反映させる方法としては、例えば、債権を信用リスクに応じてグルーピングし、各グループにあらかじめ定めておいた信用スプレッドをリスク・フリー・レートに上乗せした利率により割り引いた現在価値を時価とする方法等が考えられます。

また、貸倒懸念債権及び破産更生債権については、担保及び保証による回収見込額等に基づいて貸倒見積高を算定しているため、時価は決算日における貸借対照表価額から現在の貸倒見積高を控除した金額に近似しており、当該価額をもって時価とする等の方法が考えられます。ただし、厳密には、担保及び保証による回収見込額等について時間価値及び担保物件に関する価格変動リスク、保証に関する信用リスクを考慮する必要があると考えられます。

(c)差入預託保証金

返還期日までのキャッシュ・フローを、リスク・フリー・レートに信用スプレッドを上乗せした利率を用いて割り引いた現在価値を時価とする方法が考えられます。

(d)支払手形及び買掛金、借入金

短期間で決済される場合には、時価は帳簿価額にほぼ等しいことから、帳簿価額によることができます。そうでない場合には、一定の期間に基づいて区分した債務ごとに、返済期日までの期間及び自己の信用リスクを加味した利率で割り引いた現在価値を時価とする等の方法が考えられます。なお、自己の信用リスクは、新規に借入を実行する場合の想定借入金利と借入期間に対応したリスク・フリー・レートの差とする等の方法が考えられます。

(e)長期借入金

固定金利による場合には、一定の期間ごとに区分し、当該長期借入金の元利金の合計額を同様の借入において想定される利率で割り引いて現在価値を算定し時価とする等の方法が考えられます。

変動金利による場合には、短期間で市場金利が反映され、また、自社の信用状態が借入実行後大きく異なっていないのであれば、時価は帳簿価額と近似していると考えられるため、当該帳簿価額を時価とすることができると考えられます。

金利スワップの特例処理の対象としている借入金に関しては、金利スワップと一体として処理された元利金の合計額を、同様の借入を行った場合に適用される合理的に見積られる利率で割り引いて算定することが考えられます。

(f)社債

市場価格がある場合には、市場価格を時価とします。市場価格がない場合には、元利金の合計額を当該社債の残存期間及び自己の信用リスクを加味した利率で割り引いた現在価値を時価とする等の方法が考えられます。

会計方針の変更に係る取扱いについて

例外的に時価で貸借対照表に計上しないことが認められる範囲が、「市場価格のない有価証券」から「時価を把握することが困難と認められる有価証券」に限定されたことで、時価評価される有価証券の範囲が変更となった場合には、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱われることになると考えられます。

当基準の適用に伴い、注記のみ影響を及ぼし、時価評価される有価証券の範囲に変更がない場合には、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱う必要はなく、追加情報として記載することになります。

2. 賃貸等不動産の時価等の注記

会計基準の国際的なコンバージェンスの取組みの一環として、一定の不動産について、有用な投資情報として時価等を財務諸表の注記事項として開示することとなりました。

(1) 主な内容
  • 賃貸等不動産とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産をいいます。
  • 賃貸等不動産を保有している場合には、以下を注記します。
    • (a)賃貸等不動産の概要
    • (b)賃貸等不動産の貸借対照表計上額及び期中における主な変動
    • (c)賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法
    • (d)賃貸等不動産に関する損益
(2) 実務上の留意事項
賃貸等不動産の対象範囲について

賃貸等不動産は、下記のように類型されています。

  • (a)貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産
  • (b)将来の使用が見込まれていない遊休不動産
  • (c)上記以外で賃貸されていれる不動産

(c)については、定義が明確ではないため、実務上の問題が生じる場合が想定されますが、賃貸という形式的な区分を重視することに留意が必要です。したがって、例えば、第三者に賃貸し第三者が運営しているホテル、自社運営の駐車場のような契約上賃貸ではないが明らかに賃貸と同様と考えられる不動産は、対象範囲に含まれることになります。

また、1つの不動産を複数目的で使用している不動産(自社保有の本社ビルの一部を他社に賃貸している場合等)の取扱いも実務上問題となります。これについては、原則として賃貸等不動産とそれ以外の部分に区分して賃貸等不動産として使用される部分についてのみ開示対象とすることとされていますが、賃貸等不動産としての部分の時価を実務上把握することが困難な場合には、賃貸等不動産として使用される部分は区分せず、当該不動産全体を注記対象とすることができます。なお、賃貸等不動産として使用される割合が低いと考えられる場合には、賃貸等不動産に含めないこともできます。

賃貸等不動産に該当するか否かの判断は、連結の観点から行うこととされているため、親会社が連結子会社に賃貸している場合は対象外(ただし、連結子会社がさらに第三者に賃貸していれば対象範囲)ですが、非連結子会社や持分法適用会社に対する賃貸は対象範囲に入りますので留意が必要です。

時価の種類について
)原則的な考え方

時価は原則として観察可能な市場価格に基づく価額をいい、市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額をいいます。通常、不動産については観察可能な市場は存在しないため、合理的に算定された価額に基づくこととなりますが、これは、「不動産鑑定評価基準」による方法又は類似の方法に基づく価額とされています。契約で定められている売却価額がある場合にはそれを用いることになります。なお、「不動産鑑定評価基準」においては、評価目的に応じて様々な価格が列挙されていますが、当該基準における注記に対応するものは「正常価格」であるとされており、収益物件である場合には、「特定価格」の使用も認められています。

)みなし時価

上記の原則的な考え方の他に以下のような取扱いが認められていますので、ご留意ください。

第三者からの取得時又は直近の原則的な時価算定時から一定の評価額(実勢価格や査定価格)や適切に市場価格を反映していると考えられる指標(公示価格、都道府県基準地価格、路線価による相続税評価額、固定資産税評価額)に重要な変動が生じていない場合には、当該評価額や指標を用いて調整した金額を用いることができるとされています。

さらに、上記の変動が軽微な場合には、取得時又は直近の原則的な時価算定による価額をそのまま時価とみなすこともできるとされています。

ただし、重要な変動が生じている場合には、原則的な時価算定を行わなければなりません。また、重要な変動がない場合でも、当初取得時等から長期間が経過している場合には、原則的な時価算定の必要性が高まることにご留意ください。

重要性の乏しい賃貸等不動産については、一定の評価額や指標を時価とみなすことができ、建物等の償却性資産については、適正な簿価をもって時価とみなすこともできます。なお、当該重要性に関しては、特に定められていませんが、例えば、総資産と比較した割合を用いる考え方や賃貸等不動産の総額と比較した割合を用いる考え方などが考えられますので、各企業で適切に設定する必要があります。

注記事項について

各注記事項について実務的な留意事項について解説します。

(a)賃貸等不動産の概要

少なくとも主な賃貸等不動産の内容、種類、場所を記載する必要があります。また、管理状況等に応じて、用途別、地域別等に区分して開示する場合には、当該区分と整合的に記載することが適当であるとされています。

(b)賃貸等不動産の貸借対照表計上額及び期中における主な変動

「貸借対照表計上額」は、原則として簿価ベースでの記載となりますが、減価償却累計額等を別途記載する場合には取得原価で記載することも容認されています。

「主な変動」には、取得、処分等による変動に加え、賃貸等不動産から棚卸資産への振替及び棚卸資産から賃貸等不動産への振替による変動も含まれることにご留意ください。

(c)賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法

時価の算定に関する実務上の留意事項は②で記載したとおりです。

(d)賃貸等不動産に関する損益

賃貸に係る損益(総額表示も可)、売却損益、減損損失、その他の損益等を適切に区分して記載するものとされています。原則として損益計算書における金額に基づくこととなりますが、管理会計上の数値に基づいて適切に算定した額等も利用することが認められています。

注記の省略における重要性について

賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合には注記を省略することができます。当該重要性の判断については、賃貸等不動産の貸借対照表日における時価を基礎とした金額と当該時価を基礎とした総資産の金額の割合で判断することとなりますが、量的基準に関しては特に定められていないため、各企業で適切に設定の上、外部監査人との協議が必要と考えられます。なお、上記の時価に関しては「不動産鑑定評価基準」に従ったものではなく、一定の評価額や指標を用いることができます。

会計方針の変更に係る取扱いについて

当基準の適用により、新たに注記する事項は会計基準に伴う会計方針の変更にはあたらないものとされていますが、この場合、追加情報として記載することになります。

3. 退職給付会計における割引率の考え方の変更

退職給付会計の割引率の考え方が変更になり、期末時点の金利動向が、割引率の設定を通じて退職給付債務や損益に影響を与えやすくなるようになりました。

(1) 主な内容
  • 従来は、割引率に関して、一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができるとされていましたが、当該記述は削除され、期末における債券の利回りを基礎とすることとされました。
  • なお、当該改正によっても、割引率に重要な変動が生じていない場合、つまり、前期末に用いた割引率により算定されている退職給付債務と比較して、期末の割引率により算定された退職給付債務が10%以上変動することが推定されない場合には、割引率を見直さない点(以下、「10%重要性基準」)は変更されていません。
(2) 実務上の留意事項
退職給付債務の計算における合理的な補正について

退職給付債務の計算を社外委託している場合、計算を依頼してから結果を入手するまで時間を要するため、計算の依頼を行う時点で、期末日の市場利回りをある程度見積った上で計算の依頼を行う必要があります。

これまでは、一定期間の債券の利回りの変動を考慮できたこと及び10%重要性基準によって、期末日の市場利回りがよほど大きく変動しない限りは見直しが必要な状況にはなりませんでしたが、この改正により、割引率は期末日における市場利回りを基礎とすることから、昨今の経済状況を勘案すると期末に割引率の変更を検討せざるを得ないケースが増える可能性があると考えられます。したがって、最悪の事態を想定し計算依頼を行っておく必要があると思われます。

当然、依頼した割引率と期末日の割引率が乖離するケースが考えられますが、この点、改正基準では、退職給付債務の計算における合理的な補正方法の利用を認めており、割引率のみ異なる複数の結果をもとに合理的な補正方法によって、それら以外の割引率により計算結果を求めることができるとされています。

したがって、実務上は期末時点の割引率を予測し、その前後の割引率による退職給付債務の数理計算を依頼し、補正計算を行うことで、期末時点の割引率による退職給付債務を計算するといった対応を行うことになるものと思われます。

なお、合理的な補正方法については、日本アクチュアリー会及び日本年金数理人会の「退職給付会計に係る実務基準」(平成20年12月19日改正)に2つの手法(線形補間方式と対数補間方式)が例示されています。いずれの方法を採用するにしても実際の計算結果と補正計算の結果に大きな差異が生じないように、補正計算のために利用する割引率の幅に留意する必要があります。

適用初年度の取扱いについて

改正基準の適用は、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱うことになります。

改正基準の適用により、割引率の決定方法を変更するものの、結果として前年と同じ割引率が適用できる場合にも、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取扱い、財務諸表への影響がないものとして取り扱われますので留意が必要です。

改正基準の適用により、割引率を変更する場合、適用初年度の年度末における影響額は、当該事業年度に発生した数理計算上の差異に含めて処理することとされ、会計基準変更時差異のように区別することはしません。また、当該差異の当期費用処理額及び未認識数理計算上の差異残高は、重要性が乏しい場合を除き、会計上の変更が財務諸表に与えている影響として注記が必要となります。

なお、影響額とは、適用初年度である当期末の退職給付債務計算において改正前の基準で採用されるはずであった割引率による退職給付債務の額と改正後に採用することとなった割引率による退職給付債務の差額とされている点にはご留意ください。

以上

太陽ASG有限責任監査法人

公認会計士 杉江俊志
text : shunshi sugie