2010年3月期の事業報告及び計算書類について

2010年3月期の会社法に基づく事業報告及び計算書類を作成するにあたっては、現在施行されている会社法施行規則及び会社計算規則を確認する必要があります。この1年の間においては、以下のような改正が行われています。(注1)

  • 「会社法施行規則、会社計算規則等の一部を改正する省令(平成21年法務省令第7号)」(2009年3月27日公布、2009年4月1日施行)
  • 「会社計算規則の一部を改正する省令(平成21年法務省令第22号)」(2009年4月20日公布、同日施行)
  • 「会社計算規則の一部を改正する省令(平成21年法務省令第46号)」(2009年12月11日公布、同日施行)

においては、2008年12月に企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下、企業結合会計基準という)等が公表され、持分プーリング法が廃止されたこと等に対応するための所要の改正や、組織再編関連規定の合理化、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、連結財務諸表規則という)等の改正に対応するための所要の改正、事業報告及び株主総会参考書類に係る規律の改正等が行われています。

においては、継続企業の前提に関する注記に係る関係法令等の改正に対応するための所要の改正等が行われています。なお、本改正は既に2009年3月期から適用されています。

においては、国際財務報告基準(IFRS)に従って連結計算書類を作成することを許容するための所要の改正等が行われています。

本稿では、2010年3月決算において初めて適用される上記①及び③の主な改正内容について解説します。

なお、本文中、意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておきます。また、会社計算規則は会社の種類によって適用すべき範囲が異なりますが、本稿では、会計監査人設置会社であって連結計算書類も作成している3月31日決算の公開会社を前提としている点に、ご留意ください。

(注1)本稿では、改正前の会社法施行規則及び会社計算規則を旧施規及び旧計規、改正後の会社法施行規則及び会社計算規則を施規及び計規と表記します。

1. 事業報告関係の改正

(1) 株式の状況

発行済株式(自己株式を除く)の10%以上の株式を保有する株主の氏名又は名称及び当該株主の保有する株式数を開示するとされていたところ(旧施規122一)、保有割合が高い上位10名の株主の氏名又は名称、当該株主の保有する株式数及び保有割合を開示することとされました(施規122一)。

(2) 会社役員の兼職の状況及び社外役員の兼職・兼任の状況
会社役員の兼職の状況

直前の定時株主総会の終結の日の翌日以降に在任していた会社役員(注2)(以下、会社役員という)について、他の法人等(注3)の代表者その他これに類する者であるときはその重要な事実も記載することとされていましたが(旧施規121三)、この規定が削除され、会社役員(会計参与を除く)の重要な兼職の状況を記載すれば足りることとされました(施規121七)。その結果、会社役員が他の法人等の代表者を兼ねているだけでは開示対象とはならず、当該兼職が「重要な兼職」に該当する場合のみ開示対象となります。なお、「重要な兼職」に該当するか否かは、兼職先の会社が取引上重要な会社であるか否か、当該会社役員が兼職先の会社において重要な職務を担当するか否か等を考慮して判断されます(注4)。

社外役員の兼職の状況

直前の定時株主総会の終結の日の翌日以降に在任していた社外役員について、開示対象となる兼職の範囲が「他の会社(注5)(外国会社を含む)」とされていたところ(旧施規124一)、「他の法人等」に改正されました(施規124一)。

また、兼職しているときは「その事実及び当該株式会社と当該他の会社と関係(重要でないものを除く)」(旧施規124一)を開示すべきとされていたところ、兼職の状況が会社法施行規則121条7号の「重要な兼職に該当する場合は、当該株式会社と当該他の法人等との関係」(施規124一)を開示することとされました。

社外役員の兼任の状況

直前の定時株主総会の終結の日の翌日以降に在任していた社外役員について、開示対象となる兼任の範囲が「他の株式会社の社外役員」(旧施規124二)とされていたところ、「他の法人等の社外役員その他これに類する者」(施規124二)に改正されました。

また、兼任しているときは「その事実(重要でないものを除く)」(旧施規124二)を開示すべきとされていたところ、他の法人等の社外役員その他これに類する者を兼任していることが会社法施行規則121条7号の「重要な兼職に該当する場合は、当該株式会社と当該他の法人等との関係」(施行規則124二)を開示することとされました。

からの改正により、会社役員の兼職の状況及び社外役員の兼職・兼任の状況の開示範囲が、「重要な兼職」(施規121七)に該当するか否かで統一されたことになります。

(注2)株式会社の取締役、会計参与、監査役及び執行役をいう(施規2四)。

(注3)法人その他の団体をいう(施規2一)

(注4)小松武志、澁谷亮「事業報告の内容に関する規律の全体像」(商事法務No.1863)

(注5)株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう(会2一、施規2)。

2. 計算書類関係の改正

(1) 2010年3月期から適用されるもの
工事契約関係

企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」が適用されたことに伴い、同一の工事契約に係るたな卸資産及び工事損失引当金がある場合には、両者を相殺した差額をたな卸資産又は工事損失引当金として流動資産又は流動負債として表示することができることとされました(計規77)。

金融商品の時価等の注記

改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」が適用されたことに伴い、金融商品に関する注記として、以下の項目が追加されました(重要性が乏しい場合を除く)。ただし、連結注記表において注記する場合には、個別注記表での注記は不要となります(計規98八、109)。

  • 金融商品の状況に関する事項
  • 金融商品の時価等に関する事項

なお、会社計算規則上、具体的な記載内容に関する規定がありませんので、実務上は企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」等を参考に記載することになると考えられます(計規3参照)。

賃貸等不動産の時価等の注記

企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」が適用されたことに伴い、賃貸等不動産に関する注記として、以下の項目が追加されました(重要性が乏しい場合を除く)。ただし、連結注記表において注記する場合には、個別注記表での注記は不要となります(計規98九、110)。

  • 賃貸等不動産の状況に関する事項
  • 賃貸等不動産の時価に関する事項

なお、会社計算規則上、具体的な記載内容に関する規定がありませんので、実務上は企業会計基準適用指針第23号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」等を参考に記載することになると考えられます(計規3参照)。

企業結合会計基準等関係

企業結合会計基準等が適用されることに伴い、特別利益に属する利益の例示項目に、「負ののれん発生益」が追加されました(計規88)。

なお、いわゆる部分時価評価法が廃止されて全面時価評価法に一本化されることに伴い、連結子会社の資産及び負債の評価に関する事項(旧計規133四参照)が連結計算書類作成のための基本となる重要な事項に関する注記(計規98二、102)から削除されていますが、2010年4月1日前開始事業年度に係る連結計算書類については注記が必要ですので(平成21年法務省令第7号附則8)、ご留意ください。

(2) 2010年3月期から早期適用できるもの
資産除去債務関係

企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」(以下、資産除去債務会計基準という)が適用されることに伴い、流動負債及び固定負債の例示項目に、それぞれ「資産除去債務」が追加されました(計規75一ヌ、75二ト)。なお、資産除去債務会計基準が2010年4月1日以後開始事業年度から適用(早期適用可)されるため、当該規定は2010年4月1日前開始事業年度に係る計算書類には適用しないこととされていますが、早期適用も可能となっています(平成21年法務省令第7号附則8)。

なお、会社計算規則上、資産除去債務に関する注記を行うことは求められていません。しかし、資産除去債務会計基準では資産除去債務の内容、支出発生までの見込期間、適用した割引率等を注記することが求められていますので、その重要性等に応じ、その他の注記(計規98十五、116)のひとつとして計算書類に注記することも考えられます。

企業結合会計基準等関係

連結損益計算書において、税金等調整前当期純利益又は純損失の額に法人税等及び法人税等調整額を加減した額(すなわち、少数株主損益等調整前当期純利益又は純損失)を表示することとされました(計規93三)。なお、企業結合会計基準等が2010年4月1日以後開始連結会計年度から適用(早期適用可)されるため、当該規定は2010年4月1日前開始事業年度に係る連結損益計算書には適用しないこととされていますが、早期適用も可能となっています(平成21年法務省令第7号附則8)。

(3) 国際財務報告基準(IFRS)等に基づく連結財務諸表の作成に関するもの
指定国際会計基準に基づく連結計算書類の作成

連結財務諸表規則93条の規定により連結財務諸表を指定国際会計基準(注6)に従って作成することができる株式会社(すなわち、特定会社(連結財規1の2))は、指定国際会計基準に従って連結計算書類を作成することができることとされました(計規120)。また、この場合において、会社計算規則に従った連結計算書類(計規61一)において表示すべき事項に相当するものを除くその他の事項は、省略することができるものとされました(計規120後段)。

指定国際会計基準に従って連結計算書類を作成した場合には、以下の事項を注記しなければなりません(計規120)。

  • 指定国際会計基準に従って作成した連結計算書類である旨
また、計算書類規則120条1項後段の規定に従って一定の事項を省略した場合には、上記にかかわらず、以下の事項を注記しなければなりません(計規120)。
  • 会社計算規則120条1項の規定により作成した連結計算書類である旨
  • 同項後段の規定により省略した事項がある旨

米国基準に基づく連結計算書類の作成

会社計算規則上、米国基準に従って作成する連結計算書類に関する特則(旧計規120参照)が削除されていますが、平成21年法務省令第46号附則3条に引き継がれていますので、従来どおり、一定の会社については米国基準に従った連結計算書類の作成が認められることとなります。

(注6)国際会計基準(連結財規1の2二ニ(1))のうち、公正かつ適正な手続の下に作成及び公表が行われたものと認められ、公正妥当な企業会計の基準として認められることが見込まれるものとして金融庁長官が定めたものをいう(連結財規93)。

3. その他の改正

(1) 利益剰余金の資本組入れ

準備金又は剰余金を減少させ、資本金を増加させることができることとなりました(計規25)。旧会社計算規則48条1項では、資本準備金又はその他資本剰余金の額を減少させ、資本金を増加させることができるとされていましたので、結果として、利益準備金又は利益剰余金を減少させ、資本金を増加させることが新たに許容されたこととなります。

(2) 株主総会参考書類関係の改正
全般的記載事項

取締役が提案する議案については、その提案の理由を記載することが追加されました(施規73二)。

取締役又は監査役の選任議案

候補者が他の法人等を代表するものであるときはその事実(重要でないものを除く)を記載することとされていましたが、候補者が会社の取締役又は監査役に就任した場合に「重要な兼職」(施規121七)に該当するときはその事実を記載することとされました(施規74二、同76二)。

会計監査人選任議案

候補者が多額の金銭その他の財産上の利益(ただし、会計監査人としての報酬等を除く)を受ける予定がある又は過去二年間に受けていたことを記載する対象が、会計監査人を選任しようとしている株式会社の親会社、親会社の子会社・関連会社等からの財産上の利益に加え、会計監査人を選任しようとしている株式会社からの財産上の利益も含まれることとなりました(施規77七)。

役員退職慰労金等支給議案

責任免除等(会425、426、427)を受けた役員等(注7)に対する退職慰労金等の支給議案又は当該役員等が有利発行を受けた新株予約権(会238)を行使又は譲渡することの承認議案(会425、426、427)を提出する場合には、当該退職慰労金等の額(施規115)及び新株予約権行使又は譲渡により得る差益相当額(施規114)を記載するものとされました(施規84の2)。

(注7)取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人をいう(会423、施規2五十二)

(3) 組織再編関係の改正

組織再編等に伴うのれんの額、株式又は持分に係る特別勘定、組織再編等によって変動する株主資本等の総額に関しては、会計基準等で当然に定まるものとして、会社計算規則では基本的な事項のみを規定する一方、会計基準等では詳細な定めがない資本金、準備金及び剰余金の計上方法を主に規定するよう改正されています。

また、企業結合会計基準が改訂されて持分プーリング法が廃止されたことに伴う所要の改正や、募集株式の発行等による資本金等増加限度額(注8)に関する規定の整理等も行われています。

なお、今回の改正に伴って大幅に条文が削除されて条文番号が修正されていますので、ご留意ください。

(注8)株式の発行(ただし、合併、吸収分割、新設分割、株式交換又は株式移転に際して株式を交付する場合を除く)に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額をいう(会445、計規13

以上

太陽ASG有限責任監査法人

公認会計士 中野秀俊
text : hidetoshi nakano