2010年3月期において、会計基準等が改正されたこと等に伴い、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、財規という)、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、連結財規という)及び「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令という)が改正されています。
そこで、本稿では2010年3月期における有価証券報告書の記載上の留意事項を、主要な改正点を中心に解説します。なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。
1. 「第一部 第1企業の概況」から「第一部 第4提出会社の状況」まで
(1) 有価証券報告書の定時株主総会前の提出
改正府令では、定時株主総会の前に有価証券報告書の提出ができることになり、株主総会において有価証券報告書や内部統制報告書を報告することも可能となりました。この場合、有価証券報告書は特段の規定がない限り提出日現在の内容を記載することになります。ただし、当該有価証券報告書に記載する事項及びそれらの事項に関するものが定時株主総会(又は当該定時株主総会の直後に開催が予定される取締役会)における決議事項となっている場合は、それぞれ該当する箇所で、その旨及びその概要を記載することとなっています。
該当する箇所は、例えば剰余金の配当、役員の状況、ストックオプション制度の内容、対処すべき課題(買収防衛策)、コーポレート・ガバナンスの状況に関する事項等があると考えられます。なお、概要を記載するとされていますが、主に株主総会の招集通知の議案に記載されている内容(又はその一部を簡略化したもの)を記載することになると考えられます。また、定時株主総会において決議事項が否決又は修正された場合は、臨時報告書を提出する必要があり、有価証券報告書の記載内容を訂正する必要がある場合には、訂正報告書を提出する必要がある点に留意が必要です。
(2) 指定国際会計基準の任意適用
連結財規や内閣府令が改正され、2010年3月期から一部の上場会社(以下、特定会社という)の連結財務諸表に指定国際会計基準の任意適用が認められることになりました。指定国際会計基準とは、国際会計基準審議会(IASB)が公表する基準及び解釈指針のうち金融庁長官が定めるものを言います。
この改正により、指定国際会計基準により連結財務諸表を作成する会社は、適用初年度において「第2事業の状況 1.業績等の概要」に以下の開示を行うことが求められています。
日本基準による要約連結財務諸表(2期分)、連結財務諸表を作成するための基本となる重要な事項の変更に関する事項(2期分)
日本基準による連結財務諸表の主要な項目と指定国際会計基準による連結財務諸表の主要な項目との差異に関する事項(2期分)の概算額
なお、翌年度以降においては、直近の連結会計年度に係る上記②の記載のみが求められることになります。
また、上記の開示を行う会社は、「第5経理の状況」の冒頭部分において、以下の記載が求められています。
指定国際会計基準により連結財務諸表等を作成した旨
特定会社が指定国際会計基準に基づいて連結財務諸表等を適正に作成することができる体制の整備(例えば、指定国際会計基準に関する十分な知識を有する役員又は使用人の配置)を行っている場合には、その旨及びその体制の具体的な内容
提出会社が金融商品取引法の規定により提出する連結財務諸表等の適正性を確保するための特段の取組みを行っている場合には、その旨及びその取組みの具体的な内容
なお、上記
の「特段の取組み」については、指定国際会計基準を適用しない会社であっても記載する必要があるため留意が必要です。
(3) 行使価額修正条項付新株予約権付社債券等に関する開示
行使価額修正条項付新株予約権付社債券等(以下、MSCBという)を発行している場合は、有価証券報告書において以下の記載が必要となります。
MSCBに該当する取得請求権付株式を発行している場合には、「第4提出会社の状況 1.株式の状況 (1)株式の総数等
株式の総数」の「種類」の欄にその旨の記載
MSCBに該当する取得請求権付株式を発行している場合には、「第4提出会社の状況 1.株式の状況 (1)株式の総数等
発行済株式」の内容の欄の冒頭に、当該MSCBの特質の記載-
MSCBに該当する取得請求権付株式を発行している場合には、「第4提出会社の状況 1.株式の状況 (1)株式の総数等
発行済株式」の表の欄外に、以下の事項を記載
- 取得請求権付株券等と密接な関係を有するデリバティブ取引その他の取引の内容を当該取得請求権付株券等の内容と一体のものとみなした場合において、当該取得請求権付株券等がMSCB等と同じ性質を有することとなるときは、当該デリバティブ取引その他の取引の内容
- 権利行使に関する事項についての所有者との取決め
- 株券の売買に関する事項についての所有者との取決め
- 株券の賃借に関する事項についての所有者と会社の特別利害関係者等との間の取決め
- その他投資者保護を図るため必要な事項
MSCBに該当する新株予約権等を発行している場合には、「第4提出会社の状況 1.株式の状況 (2)新株予約権等の状況」にその旨、特質及び上記
の事項を記載
なお、改正開示府令の「第4提出会社の状況 1.株式等の状況 (3)行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の行使状況等」の様式は2010年3月期においても適用されますが、その記載は2010年2月1日以後に開始する事業年度から適用されることとなっています。従って、2010年3月期の有価証券報告書では、様式の項目自体は省略せず、記載事項はない旨の開示を行うことが考えられます。
(注) 行使価額修正条項付新株予約権付社債券等とは、取得請求権付株式に係る株券、新株予約権証券又は新株予約権付社債券であって、当該取得請求権付株券等に表示された権利の行使により引き受けられ、もしくは取得されることとなる株券の数又は当該取得請求権付株券等に表示された権利の行使に際して支払われるべき金銭その他の財産の価額が、当該取得請求権付株券等が発行された後の一定の日又は一定の期間における当該取得請求権付株券等の発行者の株券の価格を基準として決定され、又は修正されることがある旨の条件が付されたものをいいます(開示府令19条8項)。
(4) 従業員株式所有制度の内容の開示
従業員株式所有制度がある場合には、「第4提出会社の状況 1.株式等の状況」に「(10)従業員株式所有制度の内容」として、当該制度の概要、従業員等持株会に取得させ、又は売りつける予定の株式の総数又は総額、当該制度による受益権その他の権利を受けることができるものの範囲を記載することとなりました。
ここでいう従業員株式所有制度は、従業員等を対象とする持株会や、直接従業員等に株式を取得させるような仕組みが含まれ、従業員株式所有制度のうち、提出会社の株式を一定の計画に従い、継続的に取得または売りつけることを目的として、信託その他の仕組みを利用した制度が開示の対象となります。なお、提出会社が当該制度を導入していない場合には、項目名を含めて記載は不要とされています。
(5) コーポレート・ガバナンス体制
「第4提出会社の状況 6.コーポレート・ガバナンスの状況等」において、以下の記載をすることが定められました。
コーポレート・ガバナンス体制(会社が任意に設置する委員会その他これに類するものを含み、例えば経営諮問会議等)の概要、当該体制を採用している理由
内部監査及び監査役(監査委員会)監査の組織・人員(財務及び会計に関する相当程度の知見を有する監査役又は監査委員が含まれる場合には、その内容を含む)及び手続
社外取締役又は社外監査役の機能・役割(社外取締役・社外監査役の独立性に関する考え方を含む)
社外取締役又は社外監査役による監督・監査と内部監査・監査役監査・会計監査との相互関係や内部統制部門との関係
社外取締役又は社外監査役を選任していない場合には、それに代わる体制及び当該体制を採用する理由
(6) 役員報酬
「第4提出会社の状況 6.コーポレート・ガバナンスの状況等」において、従来より役員報酬の内容が記載されていましたが、以下のようにより充実した内容を記載することが求められています。
取締役(社外取締役を除く)、監査役(社外監査役を除く)、執行役、社外役員に区分した報酬等の総額、報酬等の種類別(基本報酬、ストックオプション、賞与、退職慰労金等の区分)の総額等
役員ごとの提出会社と連結子会社の役員としての報酬等(連結報酬等)の総額、連結報酬等の種類別の額等(ただし、連結報酬等の総額が1億円以上の役員に限ることができる)
提出日現在において報酬等の額又はその算定方法の決定方針がある場合、その内容及び決定方法
なお、報酬等とは、報酬、賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって、当事業年度に係るもの及び当事業年度に受け、又は受ける見込の額が明らかになったものをいいます。従って、例えば当事業年度に係る役員退職慰労引当金繰入額及びストックオプションの費用計上額は、当事業年度に係る報酬等に該当すると考えられます。
(7) 株式保有状況
貸借対照表の投資有価証券として区分されている株式について、保有目的に応じてその内容を「第4提出会社の状況 6.コーポレート・ガバナンスの状況等」において開示することになりました。保有目的の区分は純投資目的か純投資目的以外(いわゆる政策投資目的)か、という区分で判断されます。なお、純投資目的とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合をいい、政策投資目的とは取引の維持・発展を目的とする場合をいい、両者の区分方法は個々の会社の経営判断に従うこととなります。また、ここでいう投資有価証券は、財規第32条第1項第1号に掲げる投資有価証券を指し、売買目的有価証券は含まれないことになります。
政策投資目的で保有する株式については、以下の記載が必要となります。
純投資目的以外の目的で保有する株式についての銘柄数、貸借対照表計上額の合計を記載
純投資目的以外の目的で保有する上場投資株式(特定投資株式)(提出会社が議決権行使権限を有する上場銘柄(みなし保有株式)を含む)のうち、銘柄別に当事業年度及び前事業年度の貸借対照表計上額が資本金額の1%を超えるもの(それぞれの銘柄数が30銘柄に満たない場合には、貸借対照表計上額の上位30銘柄に該当するもの)について、特定投資株式とみなし保有株式に区分して、銘柄、株式数、貸借対照表計上額、具体的な保有目的等を記載(ただし、2010年3月期においては、貸借対照表計上額が資本金額の1%を超える銘柄(銘柄数が10銘柄に満たない場合には、貸借対照表計上額の上位10銘柄に該当するもの)を記載(銀行・保険会社以外の場合)。また、前期分は記載不要)
提出会社が持株会社の場合は、提出会社及び連結子会社のうち、純投資以外の目的で保有する投資有価証券に区分される株式(以下、投資株式という)の貸借対照表計上額(以下、投資株式計上額という)が最も大きい会社(以下、最大保有会社という)が保有する投資株式について、上記
、
と同じ基準で記載
提出会社が持株会社の場合で、最大保有会社の投資株式計上額が、提出会社の連結貸借対照表上の投資有価証券である株式の連結貸借対照表計上額の3分の2を超えない場合には、提出会社及び連結子会社の中で次に投資株式計上額が大きい会社が保有する投資株式について、上記
、
と同じ基準(ただし、上位30銘柄は上位10銘柄)で記載
また、純投資目的で保有する株式については、以下の事項を記載することが必要です。
提出会社が純投資目的で保有する投資株式を、上場株式・非上場株式に区分し、当事業年度及び前事業年度における貸借対照表計上額並びに当事業年度における受取配当額、売却損益及び評価損益を記載(ただし、2010年3月期においては、前事業年度分は不要)
当事業年度において保有目的を純投資目的から純投資目的以外の目的に、又は純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある場合には、それぞれ区分して、銘柄ごとに、銘柄・株式数・貸借対照表計上額を記載
2. 「第一部 第5経理の状況」について
(1) 金融商品の時価開示
近年金融取引の環境が変化する中で、時価情報のニーズが高まっていること等を踏まえ、「金融商品に関する会計基準」が改正されるとともに、「金融商品の時価等に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第19号)が公表され、2010年3月期から適用されることとなりました。同改正会計基準及び適用指針により、金融商品の状況に関する事項及び金融商品の時価等に関する事項を注記することとなります。詳細につきましては、当法人のMonthly Report Vol.14をご参照ください。
なお、同改正会計基準及び適用指針の適用については、いわゆる「会計方針の変更」としてではなく、「金融商品関係」の注記の中で「追加情報」として同改正会計基準及び適用指針が適用されている旨を開示することが考えられます。「有価証券関係」の注記については、従来通りの開示を行うとともに、有価証券の減損処理を行った場合にその旨及び減損処理額を注記しなければならなくなった点に留意が必要です。
また、時価のない金融商品は、従来取得価額による評価又は償却原価法による処理を採用することができました。しかし、当該改正により、時価開示が要求されない金融商品は時価を把握することが極めて困難なものに限られたため、取得価額による評価等も時価を把握することが極めて困難なものに限られることになりました。従って、例えば私募債のように将来キャッシュ・フローが固定されているような債券等については、時価を把握することが極めて困難とは考えられないことから、割引現在価値を算出することにより時価を算定し、時価評価することになると考えられます。このような場合は、時価評価の対象範囲が変わるため、会計基準の変更による会計方針の変更に該当する点に留意が必要です。
(2) 賃貸等不動産の時価開示
会計基準の国際的なコンバージェンスの取組みの一環として、「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第20号)及び「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第23号)が公表され、賃貸等不動産については有用な投資情報として時価等を財務諸表の注記事項として開示することとなりました。詳細につきましては、当法人のMonthly Report Vol.14をご参照ください。
なお、同会計基準及び適用指針の適用については、金融商品の時価等の開示と同様にいわゆる「会計方針の変更」としてではなく、「賃貸等不動産関係」の注記の中で「追加情報」として同会計基準及び適用指針が適用されている旨を開示することが考えられます。
(3) 「退職給付に係る会計基準」の一部改正(その3)
「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その3)」(企業会計基準第19号)が2010年3月期から適用となり、退職給付に係る割引率について、従来一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができるとされていましたが、当該部分は削除され、期末における債券の利回りを基礎とすることとされました(ただし、退職給付債務が10%以上変動する場合の重要性の基準は継続しています)。詳細につきましては、当法人のMonthly Report Vol.14をご参照ください。
なお、当該変更は、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取扱うこととなります。また、同基準の適用により割引率を変更する場合でも、数理計算上の差異を翌期から費用処理する場合、適用初年度の影響額がない場合が考えられます。このような場合でも、未認識数理計算上の差異に影響を与える際は、重要性が乏しい場合を除いてその影響額を注記する必要があることに留意が必要です。また、同基準を適用しても10%の重要性基準により割引率が変わらない場合であっても、会計基準の変更に伴う会計方針の変更に該当し、影響がない旨注記する必要があると考えられます。
(4) 重要な収益及び費用の計上基準
連結財規及び連結財規ガイドラインが改正され、連結財務諸表の作成のための基本となる重要な事項に「重要な収益及び費用の計上基準」を記載することとなりました。なお、財規では従来から「収益及び費用の計上基準」を重要な会計方針に記載することとされていましたが、財規ガイドラインが連結財規及び連結財規ガイドラインとともに改正され、「収益及び費用の計上基準」に記載する内容が拡充されています。
例えば、工事契約に係る収益及び費用の計上基準を記載するケースのほか、工事進行基準を適用している場合の工事進捗度を見積もるために用いた方法を記載するケースが想定されます。
以上
太陽ASG有限責任監査法人
公認会計士 下川 高史
text : takafumi shimokawa












