2010年度税制改正において、グループ法人税制を含む「資本に関係する取引等に係る税制」が導入されました。グループ法人税制の導入に伴い、従来から導入されていた連結納税制度は、グループ法人税制に内包されるものと位置づけられ、同時に改正が行われています。これに伴い、関連する税効果会計の実務指針等の改正も行われています。
今回は「資本に関係する取引等に係る税制」のうち、グループ法人税制と連結納税制度について、日常の取引に関連する部分を中心に、制度の改正の背景、概要、会計上の取り扱いを含めた留意点を解説します。なお本稿の意見に関する部分は筆者の個人的見解であること、及び今後の制度の改正等により変更が行われる可能性があることを、あらかじめお断りします。
1. 改正の背景
(1) グループ経営の進展
今回のグループ法人税制の導入の背景として、企業におけるグループ経営の進展が挙げられます。わが国においては1990年代頃から、経営の多角化、及び国際化により、子会社、関連会社を活用した一体的なグループ経営が進展しました。これに対応して会社法(旧商法)等の法制度や会計制度も改正が行われてきました。主な改正としては以下が挙げられます。
- 1997年 独占禁止法改正の改正による純粋持株会社の解禁
- 2001年 組織再編税制の導入
- 2002年 連結納税制度の導入
グループ経営の進展に対応し、財務省、経済産業省を中心に、2009年「資本に関係する取引等に係る税制についての勉強会」が開かれ、税制についても検討が行われました。ここでの議論を元に2009年7月に「資本に関係する取引等に係る税制についての勉強会 論点取りまとめ」が公表され、これに沿った形で、「平成22年度 税制改正大綱」において「資本に関係する取引等に係る税制」が示され、関連する法令の改正が行われました。
(2) 従来の税制における課題
従来、グループ経営に関連する税制については、以下の点が課題として指摘されてきました。
税制と経済的な実態の不整合-
税制においては、課税の公平性と中立性が求められます。グループ経営に関連する事項としては、以下の点が挙げられます。
- (
) 公平性 課税が公平に行われること。グループ経営の法的な形態にかかわらず、経済的実態が同様であれば、税負担も同様であることが望ましい。
- (
) 中立性 課税による経済活動への影響を中立的にすること。法的形態の違いで税負担に差があることが要因で、企業のグループ経営の形態の選択に影響を与えることがないようにするのが望ましい。
これらを前提とすれば、企業活動を一社に集中して行うか、子会社・関連会社で分担して行うかにかかわらず、企業の経済的実態が同じであるならば、税制においても等しく取り扱われることが求められます。しかしながら、従来の税制は、グループ経営を行う法人についても、原則として個別の法人を単位として課税を行っていたため、企業形態によってグループ内での損益通算の可否等で税負担が異なることなどで、課税の公平性と中立性に影響を与えているとの指摘がありました。
- (
実務面の課題-
グループ経営の進展に伴い、経済界を中心に連結グループを課税単位とする制度の導入が要望され、2002年に連結納税制度が開始されました。しかしながら、連結納税制度の適用時に様々な制約が存在していたため、導入する企業は必ずしも増加しませんでした。制約の例としては、以下が挙げられます。
- (
) 子会社の欠損金の持込の制限 従来、連結納税制度の適用時においては、原則として連結親法人の単体欠損金のみが引き継がれ、その他の子会社の単体欠損金の持ち込みが制限されてきました。これは、赤字法人を利用した租税回避の防止の観点から設けられた規定ですが、連結納税制度の適用に伴いグループ全体の税負担が増加することとなるため、適用時の障害となっていました。
- (
) 承認申請書の提出期限 従来、連結納税の承認申請書の提出期限は、原則として事業年度開始の6月前の日とされていました。このため、中間決算の結果を基に適用の有無を検討することが不可能となっていました。
- (
2. 今回の税制改正の適用範囲
(1) 支配関係と完全支配関係
今回の税制改正にあたっては、「支配関係」をキーワードにグループ法人税制と連結納税制度の適用範囲について整理が行われています。
- 支配関係…原則、50%超の株式・出資を保有する支配関係(兄弟会社含む)
- 完全支配関係…原則、全部(100%)の株式・出資を直接的又は間接的に保有する支配関係(兄弟会社含む)
このうち、グループ法人税制、及び連結納税制度が適用されるのは、完全支配関係がある内国法人に限られます。完全支配関係のみを対象としているのは、少数株主の存在の有無によりグループ経営の自由度に違いがあること、及び制度の複雑化の回避のためです。また、対象はわが国の課税権が及ぶ内国法人のみに限られ、在外子会社は含まれません。さらに、完全支配関係のある全ての企業を対象とすることとされており、子会社の規模等による重要性は考慮されません。
(2) グループ法人税制、及び連結納税制度の対象となる会社
従来の連結納税制度では、連結納税制度の適用は選択性とされましたが、改正後のグループ法人税制(連結納税制度を除く)については、各法人の意思にかかわらず完全支配関係がある内国法人について、全てがその対象となります。これは恣意的に選択が行われることによる租税回避の防止のためとされています。
一方、連結納税制度については、改正後もその適用は任意とされています。
3. グループ法人税制の導入
ここではグループ法人税制の導入に伴う主な改正点について、従来の連結納税制度と比較しつつ解説を行います。この改正において、完全支配関係にあるグループ間における、資産及び資金の移動について、税務上、非課税となる範囲が拡大されています。これは、企業グループ全体における効率的な資産の配置や資金調達の円滑化を促進することが目的です。
なお、以下の内容は原則として平成22年10月1日からの適用となります。
(1) 完全支配関係がある法人間の資産の譲渡取引(法法61の13
)
従来の連結納税制度において、連結納税法人間で特定の資産の譲渡が行われた際、生じた譲渡損益は資産の償却やグループ外への譲渡が行われる時点まで繰り延べることとされていました。今回の改正において、完全支配関係がある法人間の取引まで対象が拡大されています。
対象となる資産は政令において以下のように定められています。
- 固定資産
- 土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)
- 有価証券
- 金銭債権
- 繰延資産
また、以下は対象から外されています。
- 売買目的有価証券
- 譲受法人において売買目的有価証券とされる有価証券
- 譲渡の直前の帳簿価額(その譲渡した資産を財務省令で定める単位に区分した後のそれぞれの帳簿価額)が1,000万円に満たない資産
このように、政令においては主に譲受からグループ外への移転が長期に渡ることが予想される資産が対象とされています。棚卸資産等の一般的に譲受からグループ外への移転が短期となる資産は、損益を繰り延べる必要性が薄いため、対象とはされていません。
従来、連結納税制度適用会社以外のグループ企業においては、連結財務諸表上は譲渡損益が消去されたのに対し、税務上は消去されず、譲渡損益が一時差異となり、繰延税金資産又は繰延税金負債が認識されてきました。改正後は、税務上も譲渡損益が相殺されるため、連結財務諸表において繰延税金資産又は繰延税金負債は認識しないこととなります。また改正後、譲渡した会社の個別財務諸表上、譲渡した事業年度の課税所得を構成せずに、グループ外の移転まで課税が繰り延べられることとなる損益は一時差異に該当し、税効果の対象となります。
(2) 完全支配関係にある法人間の寄附金(法法25の2
、法法37
)
寄附金の不算入-
寄附金の税額計算上、従来より連結納税法人間における寄附金は、支出側では全額損金不算入、受取側では全額益金不算入とされ、連結納税グループを一体として寄附金の損金不算入額を計算していましたが、連結納税法人間以外では支配関係の有無は考慮されませんでした。このため、連結納税法人間以外のグループ企業間における寄附金について、支出側では寄附金の損金不算入額の限度内を超える分は課税の対象となる一方、受取側では全額益金算入とされてきました。これは、グループ企業内の資金運用の妨げになるとの指摘がありました。
今回の税制改正においては、対象を完全支配関係がある内国法人間の寄附金に拡大し、支出側では全額損金不算入、受取側では全額益金不算入とされています。これにより、グループ内における資金移動がより円滑に行われることが期待されます。
従来、連結財務諸表上は当該取引が消去されたものの、税務上は消去されず、支出側では寄附金の損金不算入額の限度額を超える部分、及び受取側では全額が永久差異に該当しました。これが改正後は、永久差異には該当しなくなります。一方、個別財務諸表上は、支出側では寄附金の損金不算入額の限度額を超える部分、及び受取側では全額が永久差異となります。
寄附金・受贈益がある場合の利益積立金(法令9
七)-
寄附金の支出側において損金不算入となり、受取側で益金不算入となった場合、双方で流出項目として申告加算を行うことで、所得の増減と利益積立金の増減が切り離され、利益積立金を一方の法人から他方の法人に移転させることとなります。
これに対応し、今回の改正により、親法人の利益積立金の加算項目に「寄附修正事由」が新たに規定されました。寄附がなされた際は、親法人の申告調整において、支出側の法人の株式の帳簿価額から寄附金相当の減算、見合いの利益積立金額を減少、受取側の法人の株式の帳簿価額から寄附金相当の加算、見合いの利益積立金額を増加させる処理が行われます。
(3) 完全支配関係にある法人からの受取配当金の益金不算入(法法23
、法法81の4
)
従来、連結納税法人間の配当金は、受取側では全額益金不算入とされていました。一方、連結納税適用会社以外における100%子法人からの受取配当金については、負債利子控除が行われていたため、益金不算入額に制限がありました。
今回の税制改正においては、原則として、完全支配関係がある内国法人間においても受取配当金の負債利子控除が不適用となります。今回のグループ法人税制の導入に先立ち、2009年の税制改正において、海外子会社からの配当金も、その95%が益金不算入となっており、企業内の資金戦略の資金運用がより効率的に行われることが期待されます。
(4) 中小企業向け特例措置の大法人の100%子法人に対する適用
法人税法上の中小法人(資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人)に対しては従来、親会社等の有無にかかわらず、税負担の軽減を目的として各種特例措置が設けられてきました。しかしながら、大法人の子会社については、単独の中小零細企業と異なり資金調達能力等に対する政策的配慮の必要性が乏しいこと、及び大法人が事業部門を中小法人に分社化した場合と一社集中させた場合とで税負担が大きく異なることは適当ではない考えに基づき、改正が行われています。改正後は資本金の額若しくは出資金の額が5億円以上の法人又は相互会社等の大法人の100%子法人(株式・出資が100%所有されている法人)において、以下の特例措置が不適用となりました。
- (
) 軽減税率(法法66
二イ) - (
) 特定同族会社の特別税率の不適用(法法67
) - (
) 貸倒引当金の法定繰入率(措法57の10) - (
) 交際費の損金不算入制度における定額控除制度(措法61の4) - (
) 欠損金の繰戻しによる還付制度(措法66の13)
このうち(
)については、税効果会計において子会社の実効税率の算定に影響を与えます。また、その他の改正点についても、税務上の損金及び益金の算入限度額の変更により、一時差異、永久差異の額に影響を与えます。
4. 連結納税制度の改正
従来、連結納税制度への移行において、手続の複雑さ、税負担の増加などが生じるケースが多く、移行する企業が増加しませんでしたが、今回の改正において、改善が行われています。
以下の改正の内容は、2010年10月1日からの適用となります。
(1) 連結納税適用開始・子会社加入の際の欠損金
前記の通り、従来、連結納税制度の適用時においては、原則として連結親法人の単体欠損金のみが引き継がれ、その他の子会社の単体欠損金の持ち込みは制限されてきました。しかしながら、欠損金の持込の範囲を子会社の個別所得額を限度とすれば、租税回避のために赤字法人が利用される可能性は減少します。これを踏まえ、今回の改正では、加入時の資産の時価評価制度の対象外の連結子法人において、連結納税の開始又は加入前に生じた欠損金額を特定連結欠損金とし、個別所得金額を限度として繰越控除の対象に追加できることとしました。これにより、連結納税の開始による税負担の増加が抑えられ、連結納税制度をより適用しやすくなります。
連結納税適用会社の税効果会計の適用においては、連結納税主体を一体とした回収可能性の判断とともに、連結納税会社の個別財務諸表においても繰延税金資産の回収可能性の判断が行われます。改正により、連結納税主体の欠損金のうち、特定連結欠損金については、当該の連結子法人の課税所得の範囲内で繰延税金資産の計上が可能となります。このため、連結納税主体を一体とした繰延税金資産の回収可能性の判断の際も、グループ全体のみならず、各子会社の課税所得の十分性についても検討が必要となります。
(2) 連結納税制度の適用に係る承認申請期限の延長(法法4の3
)
従来、連結納税制度の適用を受けるにあたり、税務当局への承認申請書を提出する際の提出期限は、事業年度開始の6月前となっていました。しかしながら、企業が連結納税制度の適用を判断するにあたり、企業が中間(第2四半期末)決算時点での業績を考慮して判断することが出来ないため、連結納税制度の適用に慎重となる一因となっていました。このため、今回の改正で提出期限が、3月前まで延長されています。
(3) 連結納税への加入時期の柔軟化(法法4の3
、14
一イ、15の2
)
今回の改正において、事業年度の中途で完全支配関係が生じた場合の連結納税の承認の効力発生日の特例制度について見直しが行われました。改正後は、原則として連結親法人と加入法人との間で完全支配関係が生じた日(加入日)以後最初の月次決算日の翌日を、連結納税の効力発生日とできるようになりました。
この他、今回の改正において、連結納税の開始または連結グループ加入に伴う資産の時価評価の範囲の対象から開始・加入後2月以内に離脱する法人の有する資産の除外、連結中間申告、連結納税における投資簿価修正などについて、改正が行われています。
5. 清算所得課税の廃止(法法5)
内国法人の解散に際し、改正前は残余財産に対して課税が行われていました。
改正前の清算所得(旧法法93
)
=残余財産の価額-(解散時の資本金等の額+解散時の利益積立金額等)
しかし、清算所得は実質的には、過去の各事業年度の所得のうち課税が行われていない残余分であることから、今回の改正により、通常の法人と同じく各事業年度の所得に対して課税を行うこととなりました。これに伴い、残余財産がないと見込まれる場合は、期限切れ欠損金について、青色欠損金等控除後の所得金額を限度として損金の額に算入することとされています。(法法59
)
6. 会計基準等の対応
今回の税制面での改正に対応し、以下の実務対応報告の改正が行われています。
- 「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(企業会計基準委員会 実務対応報告第5号)
- 「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(企業会計基準委員会 実務対応報告第7号)
なお、同時に以下の実務対応報告が廃止されています。
- 「連結納税制度を適用する場合の中間財務諸表等における税効果会計に関する当面の取扱い」(企業会計基準委員会 実務対応報告第2号)
また、以下の実務指針について、改正が予定されています。
- 「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号)
- 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号)
7. 今後の課題
グループ経営に関する税制に関連する今後の課題としては、以下が挙げられます。
(1) 100%未満保有の支配関係への適用
今回の改正において、グループ法人税制、連結納税の対象は全部(100%)の株式・出資を保有する完全支配関係による企業グループとされています。その判断は形式的基準によります。しかし、実際は100%未満の支配関係がある会社についても、実質的に一体的なグループ経営の中に組み込まれているケースが多く見られます。このため、会計上の連結の範囲は、持株比率等の形式的基準のみならず、意思決定機関の支配や重要な契約・取引の存在等の実質的基準も加味し、判断が行われています。
今後は税制面においても、100%未満の支配関係の取り扱いについて議論となることが予想されます。
(2) 国際的な企業戦略への対応
今回の改正において、グループ法人税制、連結納税制度の各取り扱いの適用範囲は、我が国の課税権の範囲の関係もあり、原則として内国法人間の取引に限られています。今後も企業の国際的な活動の拡大が見込まれることから、海外子会社の取扱いも検討課題となることが考えられます。移転価格税制等も含めた国際的な税制のあり方について、各国間で議論が行われることも考えられます。
以上
【参考資料】
- 財務省・経済産業省「資本に関係する取引等に係る税制についての勉強会 論点とりまとめ」(2009年7月)
太陽ASG有限責任監査法人
公認会計士 竹田 英秋
text : eishu takeda












