2011年度のIPO市場は、3月に発生した東日本大震災の影響が懸念されていたものの、11月末時点で26社(うち1社は上場承認分)にのぼり、既に昨年度のIPO社数22社を上回っています。このようにIPO会社数の推移は図表1に示すように2009年の19社を底にIPO市場も増加傾向にあり、今後、日本経済の再生及び成長に向けてIPO市場の拡大も期待されます。

このようなIPO市場の環境のもと、IPOを目指す企業では、ビジネス自体を拡大させていく一方で、IPO上の様々な課題を一つずつ解決していかなければなりません。しかしIPOにおける課題には、取引所における審査上の論点や会計・監査上の論点、資本政策や特別利害関係者等のビジネス上の論点等多岐にわたるため、限られた時間の中で効率的かつ効果的に戦略的なIPOの準備を進めていく必要があります。

そこで、本稿では2回にわたってIPOをすすめるにあたり、よくある質問項目をQ&A形式で解説していきます。

第1回目としては、国内最大の新興市場であるJASDAQ市場のよくある質問項目とIPOを進めるに当たって会計及び監査上のよくある質問項目を取り上げます。

なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。

(図表1)IPO会社数の推移

市場 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
ジャスダック 56 49 19 10 14
ヘラクレス 37 25
東証(1,2部) 29 13
マザーズ 41 23 12
その他 25 11
合計 188 121 49 19 22 26

※2011年の数値は、2011年11月末時点までの新規上場会社数(上場承認分を含む)。

1. JASDAQ市場におけるよくある質問項目

Q1 JASDAQの市場区分には、「スタンダード」と「グロース」の2つがありますが、この2つの違いはどこにあるのでしょうか?
また、上場後に市場区分の変更は可能でしょうか?

「スタンダード」は、既にある程度の利益が出ているレベルの企業向けの区分であり、一方「グロース」は、将来性を秘めた成長途上にある企業向けの区分になります。JASDAQスタンダードとグロース、それぞれの市場区分における審査基準は以下のとおりです。

なお、JASDAQ市場の概要の詳細については、Monthly Report volume24をご参照ください。

(1) (図表2)形式審査基準
審査項目 スタンダード グロース
純資産の額 2億円以上 (直前期末) 正(直前期末)
利益の額 経常利益及び税引前利益が1億円以上(直前期)
ただし、上場日時価総額が50億円以上の場合は利益の額は問わない
公開株式数 公募又は売出し株式数が上場株式数の10%または1,000売買単位のいずれか多い株式数以上
株主数 300人以上
浮動株時価総額 5億円以上 (上場日)
財務諸表 虚偽記載を行っていないこと及び
最近2期間「監査意見:適正」最近1期間「監査意見:無限定適正」
その他 ・株式事務代行機関に株式事務の委託を行っていること
・単元株式数が、上場時に100株となる見込みのあること
・株式の譲渡につき制限を行っていないこと
・指定振替機関における取扱の対象であること
・上場前の公募又は売出し等に関する規則に適合しない第三者割当等及び特別利害関係者等 の株式等の移動を行っていないこと

※浮動株の定義は、上場株式のうち、役員が所有する株式、自己株式、上場株式数の10%以上を所有する株主が所有する株式(信託銀行、証券金融会社、預託証券に係る預託機関等がその業務のために所有する株式であり、実質的に10%以上を所有するものではないと認められる株式を除く。)及び役員以外の特別利害関係者の所有する株式(新規上場の場合に限る。)を除いた株式となります。

(2) (図表3)実質審査基準
スタンダード グロース
a.企業の存続性
-事業活動の存続に支障を来す状況にないこと
a.企業の成長性
-成長可能性を有していること
b.健全な企業統治及び有効な内部管理体制の確立
-企業規模に応じた企業統治及び内部管理体制を確立していること
b.成長の段階に応じた健全な企業統治及び有効な内部管理体制の確立
-成長の段階に応じた企業統治及び内部管理体制を確立していること
c.企業行動の信頼性
-市場を混乱させる企業行動を起こす見込みのないこと
d.企業内容等の開示の適正性
-企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること
e.その他公益又は投資者保護の観点から必要と認める事項
Q2 JASDAQグロースの上場審査基準で求めている「成長可能性」については、具体的には年率何%の成長が必要なのでしょうか?

具体的な数基準までは特に設けられていません。ある程度の期間、成長を持続する計画があり、その計画に合理的な裏付けが必要になります。

なお、先行投資型企業の場合には、申請事業年度から起算して5年以内に当期純利益を計上できるという合理的な事業計画の提出が必要となっています。

Q3 JASDAQの上場審査は一般的にどれくらいの期間がかかるものなのでしょうか?

順調に審査が進んだ場合には、45営業日程度を見込んでいるということですが、一律に何日とまでは言えないため、時間がかかるケースもあります。

Q4 証券会社の引受審査をクリアした後に、JASDAQの上場審査でダメになるようなケースは頻繁にあるものなのでしょうか?

証券会社の引受審査をクリアした後に、取引所の上場審査の段階でダメになるようなケースについて頻繁にあるわけではないと言われています。ただし、上場申請後に上場承認に至らないケースもあり、上場申請期を変更するようなケースもあります。

なお、上場審査で問題となりやすい事項は例えば以下のような事項になります。

  • 規程・マニュアルの整備・運用状況
  • 労務管理の状況(残業代の未払いへの対応等)
  • 適切な役員配置、非常勤役員の勤務状況
  • 内部監査の実効性(海外拠点の実査状況等も含む)
  • 利益計画・予実分析の策定・実行状況
  • 親会社からの独立性
  • 訴訟・係争・紛争の状況
  • 関連当事者・特別利害関係者等との取引
  • 第三者割当増資・株式移動の割当・移動理由・価格算定方法等
  • 反社会的勢力又は当該勢力に関係すると思われる者との接触が明らかになった場合の対応
Q5 当社はいわゆる同族経営会社であり、取締役会は、管理部門の取締役も含めて全員が同族で構成されています。JASDAQの上場審査上において問題となりますでしょうか?

現状の役員構成では上場することはできません。取締役会の構成員の過半数が2親等以内の親族である場合、原則として上場はできません。

2. IPOを進めるに当たっての会計・監査上のよくある質問項目

Q6 最近、社内でIPOについて検討を始めました。上場には2期分の監査が必要と言われていますが、監査法人はいつごろ選任すれば良いのでしょうか?

上場申請には、直前々期と直前期の2会計期間の監査法人による監査が必要になります。通常、直前々期の監査意見を行うに当たっては、棚卸立会等の期首の残高確定に必要な監査法人による監査手続が必要になります。そのため、直前々期の期首残高を監査人が確かめられるようなタイミングで監査法人を選任する必要があります。

また、監査契約を締結する前には、監査法人による株式公開のための短期調査を行う必要があります。

さらに、戦略的なIPOを目指す上では、直前々期の1期前から監査法人と上場のためのアドバイザリー契約を行うことも望ましいと考えられます。

(図表4)監査法人の選任時期

Q7 株式上場ために監査法人が監査の対象とする財務諸表の種類を教えてください。また、監査以外に監査法人による四半期レビューも必要になるのでしょうか?

株式上場のための監査の対象となる財務諸表は、直前々期と直前期の2期間の財務諸表であり、財務諸表の種類としては以下のとおりです。

  • (連結)貸借対照表
  • (連結)損益計算書
  • (連結)株主資本等変動計算書
  • 連結キャッシュ・フロー計算書
  • (連結)附属明細表(直前期のみ)

また、監査の対象外になりますが、図表5に示すように直前々期より前の3期間についても財務諸表を作成し、申請書類に記載する必要があります。

(図表5)特別情報として記載される提出会社の最近の財務諸表

なお、監査法人の四半期レビューについては、東京証券取引所1部・2部については、直前期の第1四半期から第3四半期の財務諸表について四半期レビューが必要となりますが、東証マザーズ及びJASDAQについては、四半期レビューは不要となっています。

Q8 今まで税務会計中心で会計処理を行ってきました。IPOを目指すに当たって、企業会計へ移行させる必要があると思いますが、税務会計から企業会計へ移行するに当たって一般的にどのような影響が出てくるでしょうか?

税務中心の経理処理から企業会計への移行により大きな違いが出る主な項目としては図表6に示すとおりになります。

(図表6)税務会計と企業会計の主な差異

税務会計 企業会計
収益計上
  • 出荷基準、工事完成基準
  • 継続的な役務提供であっても一時金は収入時に一括計上
  • 仲介取引でもグロス表示
  • 検収基準、工事進行基準
  • 役務提供の期間で按分処理
  • 仲介取引は売上と原価をネット表示
費用計上
  • 請求書到着日基準
  • 研究開発費の繰り延べ処理
  • 発生主義
  • 研究開発費の一括費用処理
棚卸資産
  • 原価法
  • 正味売却価額
研究開発費
  • 償却限度額内での任意償却
  • 税法上の耐用年数で償却
  • 減損会計の適用なし
  • 資産除去債務の計上なし
  • 規則的な償却
  • 経済的耐用年数で償却
  • 減損会計の適用
  • 資産除去債務の計上
各種引当金
  • 税法上で認められた範囲で引当金のみ計上
  • 貸倒引当金
  • 賞与引当金
  • 退職給付引当金
  • 役員退職慰労引当金
  • 製品保証引当金
  • 工事補償引当金
  • その他
有価証券
  • 取得原価
  • 時価評価/著しく下落した場合の評価損の計上

このうち、経費の処理については、納品・検収日基準での経費計上や経過期間の経費計上、概算経費の計上等、いわゆる発生主義に基づいた経理処理を行うことが求められ、IPOを目指すに当たってはさらに月次で発生主義に基づいた経理処理を行える体制の構築が必要になります。

また、引当金については、税法上認められた範囲での引当金計上から企業会計では企業会計原則注解18に基づいて以下の要件を満たすものについては引当金を計上する必要が生じることになり、税務会計と大きな差異が生じる可能性があります。

(図表7)企業会計原則注解18 引当金計上の4要件

将来の特定の費用または損失であること
その発生が当期以前の事象に起因すること
発生可能性が高いこと
金額が合理的に見積もることが可能であること

なお、企業会計への移行により、会計上で費用処理したとしても税務上では費用計上できない項目が生じるため、企業会計上の利益と税務上の課税所得は一致しないことになります。このため、企業会計では税効果会計を導入し、これらの違いから生じる法人税等の額を適切に期間配分する処理が行われます。

Q9 今までも原価計算を行ってはいますが、必ずしも正確な原価計算とは言い切れません。株式上場にあたり原価計算の方法を見直そうと考えていますが、どのような点に留意すべきでしょうか?

原価計算の方法が上場会社として十分な精度であるかどうかを判断するためのポイントは主に以下のとおりです。

まず原価計算の直接費・間接費の範囲について、本来直接費として処理すべき費目が間接費として処理されていないかどうかを検討する必要があります。その上で、間接費を配賦するに当たっての配賦基準が適切かつ公平な基準を使用して配賦を行えているかどうかを検討する必要があります。間接費の配賦基準としては例えば人員割や面積割、直接経費率での按分等がありますが、配賦対象となる間接費の活動量と相関性の高くかつ公平な基準で按分することが求められます。

また、月次決算を早期化するため、月次の原価計算について予定原価を採用する必要があるかどうかも考慮に入れる必要があります。

さらに、プロジェクト別に損益管理が必要となる企業については、人件費の時間集計について人件費の稼働集計の仕組みが適切に構築されているかどうかも検討する必要があります。

これらの検討を踏まえた上で原価計算システムを改めて構築する必要がある場合、通常原価計算システムの構築には1年程度の期間がかかる可能性があるためIPOのスケジュールを踏まえて計画的に準備を進めていく必要があります。

Q10 過年度遡及修正の会計基準の適用が開始されていますが、この会計基準の適用は、上場準備にどのような影響を与えるのでしょうか?

過年度遡及修正の会計基準である「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の概要は図表8のとおりであり、遡及適用、財務諸表の組替え、修正再表示により過去の財務諸表を遡及的に修正する基準になります。

このうち、「会計方針の変更」、「表示方法の変更」、「過去の誤謬の訂正」については、遡及処理を行い、「会計上の見積りの変更」については、遡及処理は行いません。なお、過年度遡及処理の実務の詳細については、Monthly Report volume21222333をご参照ください。

(図表8)「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の概要

  原則的な会計上の取扱い
会計上の変更  
  会計方針の変更 遡及処理する(遡及適用)
  表示方法の変更 遡及処理する(財務諸表の組替え)
  会計上の見積りの変更 遡及処理しない
過去の誤謬の訂正 遡及処理する(修正再表示)

Q8でも記載した税務会計から企業会計への変更等は、過去の誤謬の訂正として、原則として上場申請書類の全開示対象期に遡及して修正する必要が生じてきます。また、上場申請書類上の5期間の比較可能性については、5年間の決算数値を比較可能な数値にすることになります。

(図表9)上場申請書類上の5期間の比較可能性

また、過去の会社法上の計算書類の訂正については、直前々期の会計方針が決まり、過去の決算数値を遡及修正する必要が生じた場合、できるだけ早い時期に臨時株主総会を開催して、過去の計算書類を一括して訂正するのが一般的です。

さらに過去の決算修正の税務上の取扱いについては、修正申告すべきか否かについて、内容に応じて顧問税理士と相談の上、修正申告の有無を判断すべきですが、修正が必要な場合には、少なくとも直前々期の法人税の申告書上で過去の決算修正の影響の反映を完了させる必要があります。

Q11 上場審査上、内部統制の整備・運用状況が評価されますが、上場後には監査法人による内部統制の監査(J-SOX)も始まるため、そのための準備も必要と考えています。同じ内部統制の整備・運用状況の評価になるため、二度手間にならないようにしたいのですが、良い方法はありますか?

上場審査の過程では、実質基準に基づいて株式上場を申請する会社が上場会社として相応しい内部統制を構築しているかについて重点的に審査が行われます。その上で実質基準をクリアし、上場したにもかかわらず、上場直後のJ-SOXで問題が生じた場合には、審査を行った証券取引所や証券会社への信頼性を大きく損なうことにもなり、事実上、上場審査では、上場後に即座に開始されるJ-SOXの準備が十分か確認されることになります。このため、実務上は上場前までにJ-SOXへの対応も完了させておく必要があります。

上場審査基準とJ-SOXが求める内部統制の評価の相違点は以下の表のとおりですがほとんどが関連しています。したがって、J-SOXを核にして上場審査対応を進めることが有効であり、J-SOXと実質基準で重複する部分については、深度の深いJ-SOXを基礎として実質的な上場準備を行うことで作業が二度手間にならず効率的にすすめることができます。

なお、JASDAQ上場申請レポートの記載要領でもJ-SOX対応で作成したフローチャート等が流用可能である旨規定されていますのでこの点も踏まえて準備を進めていくことが必要です。

(図表10)上場審査基準とJ-SOXが求める内部統制の評価の相違点

上場審査基準 J-SOX
評価者 証券取引所・主幹事証券会社 経営者・監査法人
評価対象 上場会社に必要な内部統制 財務報告の信頼性を担保するための内部統制
評価対象期間 上場審査時 上場後毎年
評価(審査)方法 決まった方法はない 決まっている

(参考資料:株式会社大阪証券取引所作成 株式上場セミナー「事例分析に学ぶ戦略的IPO」(弊法人主催/2011年11月15日開催)資料)

以上

太陽ASG有限責任監査法人

公認会計士 土居 一彦
text : kazuhiko doi