地方公営企業会計制度について、昭和41年以来、約46年ぶりに大幅な改正が行われ、平成26年度の予算および実績から適用されることとなりました。これについて、見直しが行われた主なポイントとともに、新会計基準への移行に当たり必要となる準備について解説します。

なお、本文中、意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であることを、あらかじめ申し添えます。

1.新地方公営企業会計制度の見直しの背景と基本的な考え方

今回の制度改正は、地方独立行政法人の会計制度の導入及び地方公会計改革の推進、地域主権改革の推進、公営企業の抜本改革の推進等が行われていることを背景とし、地方公営企業会計についても企業会計基準との整合性を図るという点が特徴となっています。企業会計基準が頻繁に見直され進展していく中で、地方公営企業会計制度は昭和41年以来大きな改正がなされておらず、両者の乖離が大きくなり、相互比較可能性が損なわれていると考えられるためです。

そのため、新地方公営企業会計制度については、現行の企業会計原則の考え方を最大限取り入れたものとし、かつ、負担区分原則に基づく一般会計等負担や国庫補助金等の公的負担の状況を明らかにする必要があるという地方公営企業の特性等を適切に勘案したものとする、といった基本的考え方に基づき改正がなされています。

2.会計基準の主な見直し項目

上記の基本的考え方に基づき、会計基準の見直しが行われた主な項目は、以下のとおりです。

主な見直し項目
借入資本金の負債計上
補助金等により取得した固定資産の償却制度等
退職給付引当金等の各種引当金の計上
繰延資産
たな卸資産の価額
減損会計の導入
リース会計の導入
セグメント情報の開示
キャッシュ・フロー計算書の導入

これらの主な見直し項目について、そのポイント、移行に当たっての留意点等を解説します。

借入資本金の負債計上
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • 借入資本金を負債に計上
  • 一年内に返済される金額を流動負債、それ以外を固定負債として区分
  • 負債計上にあたり、建設又は改良等に充てられた企業債及び他会計長期借入金については、他の借入金と区分
  • 負債のうち、後年度一般会計負担分については、その旨注記
【解説】

従来、建設又は改良等の目的のために発行した企業債・他会計からの借入額については、民間企業の資本金に近い性質があるとされ、「借入資本金」として資本の部に計上されていました。しかし、債務として利息の支払いや返還の義務があることを重視し、貸借対照表上負債として計上されることとなりました。

一方で、対応した実物資産が存在する建設又は改良等に充てられた負債と、通常の資金手当て的な債務(従来から債務計上されていた借入金等)とを明確に区分することとしていることや、後年度に一般会計等が負担することとされ実質的に地方公営企業が負担する必要のない債務については注記を行う、といった点について、地方公営企業の特性が考慮されています。

【移行実務の留意点】

借入金等について、流動・固定分類や注記に必要なデータが取得できる形で管理しておく必要があります。

補助金等により取得した固定資産の償却制度等
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • みなし償却制度の廃止
  • 償却資産の取得又は改良に伴い交付される補助金、一般会計負担金等について、「長期前受金」として負債(繰延収益)に計上した上で、減価償却見合い分を順次収益化する。
  • (経過措置)既取得資産について、グルーピングによる総合償却等による簡便な処理方法が認められている。 また、簡便な処理方法によっても移行処理が困難である場合、従前通りの取扱いによることができる。
  • 建設・改良に充てた企業債等に係る元金償還金に対する繰入金については、長期前受金として計上した上で、減価償却に伴って収益化する。ただし、各事業年度における減価償却額と当該繰入額との差額が重要でない場合は繰り入れた年度に全額を収益として計上することができる。
【解説】

従来、補助金等により取得した固定資産について、補助金部分については償却を行わない「みなし償却」が任意で認められていました。しかし、これは貸借対照表上、資産価値が適切に表示されないことや、適用が任意であることにより比較可能性が損なわれることに問題があるとして、廃止されることとなりました。一方で、償却資産の取得・改良のため交付される補助金等については、長期前受金として負債に計上し、資産の減価償却に対応させて収益化を行うことが必要となります。

【移行実務の留意点】

移行にあたっては過年度取得資産についても、当初から新制度での処理を行っていたかのように修正を行う必要があります。すなわち、みなし償却を行っていた場合には当初から通常の減価償却を行っていた場合の帳簿価額への修正が必要となります。また、過年度取得資産のために交付された補助金等が資本剰余金として計上されている場合は、長期前受金・長期前受金収益化累計額・利益剰余金等に振り分ける必要があります。

なお、経過措置としてこれらの計算を個々の資産ごとではなく、国庫補助事業等のグループごとによる総合償却等、簡便的な方法によることも認められています。また、簡便的な計算すらも困難である特別の事情がある場合は、従来の方法によることができるとされています。

そのため、事前にどのような方法で新制度への移行を行うかを事前に決定して計算方法を定める必要があります。また、計算が煩雑となるため、システム上の対応が必要となる場合、早めに準備を行うことが必要となります。

退職給付引当金等の各種引当金の計上
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • 退職給付引当金の計上を義務化
  • 退職給付引当金以外の引当金についても、引当金の要件を踏まえ、計上するものとする(例:賞与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、貸倒引当金)。
  • 退職給付債務の算定方法は期末要支給額によることができる。
  • 一般会計と地方公営企業会計の負担区分を明確にしたうえで、地方公営企業会計負担職員について引当てを義務付け
  • 計上不足額については、適用時点での一括計上を原則とする。ただし職員の退職までの平均残余勤務年数の範囲内(最長15年)での対応を可とする。なお、その内容は、注記する。
  • 従前の修繕引当金は、修繕引当金と特別修繕引当金に区分する。
【解説】

従来は退職給与引当金と修繕引当金の計上が認められていましたが、計上が任意であったため、貸借対照表において経営状況が適切に表されないことや、比較可能性が損なわれるといった問題点がありました。そのため、引当金の計上が義務化されました。引当金とは、(1)将来の費用又は損失であり、(2)その費用又は損失の発生が当期以前の事象に起因し、(3)発生の可能性が高く、(4)金額を合理的に見積もることができる、という4つの要件を満たす場合に計上しなければならないとされるものです。反対に、4つの要件を満たさない場合には計上をすることができない点に留意が必要です。

退職給付引当金は、職員に支給する退職手当に関して期末日時点で計上すべき債務である退職給付債務から、すでに積み立てられている資金を控除して算定されます。なお、一般会計で負担される退職手当については退職給付債務の認識は不要となりますが、その旨を注記する必要があります。

退職給付債務の算定方法には、以下の2種類の方法があります。

  • 原則法:退職時に支給が見込まれる退職金のうち、その時点までに発生している金額を一定の割引率や予想される退職時から現在までの期間に基づき割り引いて計算する方法
  • 簡便法:その時点で職員が自己都合で退職した場合に支給すべき退職金の合計とする方法

また、退職手当組合等に加入している団体の場合、退職給付引当金は退職給付債務から組合積立額を控除した金額とすることとなります。組合積立額は、組合への加入時からの負担金の累積額から、既に支給された額の総額を控除した額に、組合における積立金の運用益のうち当該団体へ按分される額を加算した額とされています。

【移行実務の留意点】

引当金は将来発生する費用又は損失について計上するものであり、漏れなく計上できるようにする必要があります。そのため計上する必要のある引当金について事前にリストアップが必要です。

また、退職給付引当金については、一般会計と公営企業での負担関係の明確化や、原則法と簡便法のいずれを採用するかを事前に決定する必要があります。さらに、退職給付債務の計算について原則法を採用した場合には通常保険数理人へ計算を委託する必要があるため、早い段階での調整が必要となります。

繰延資産
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • 新たな繰延勘定への計上を認めない。
  • (経過措置)既に繰延勘定に計上されている項目は、償却を終えるまでは従来通りの処理とする。
【解説】

事業法において認められる項目(鉄道事業における多額の災害損失など)を除き、繰延資産(従来の繰延勘定)は計上を認められないこととなりました。これは、繰延資産はその効果が次年度以降に継続することが前提とされる資産ですが、将来の効果が明確なものは相当に限られており、企業会計においても創立費や開業費等の5項目に限定列挙されていることを考慮したものと思われます。

なお、控除対象外消費税については、引き続き資産計上が認められますが、見直し時点で繰延資産から固定資産の区分に計上することとされています。

【移行実務の留意点】

現在繰延勘定に計上されているものについては、償却を終えるまでは従来通りの処理となりますが、控除対象外消費税については移行時に固定資産への振替が必要となります。

たな卸資産の価額
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • 低価法の義務化
【解説】

従来は原則として取得価額で計上されていたたな卸資産について、たな卸資産の実態を適切に表示し財政状態をより適切に表示するため、時価が帳簿価額より下落している場合には、当該時価を貸借対照表価額とすることとされました。なお、事務用消耗品等の販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき貯蔵品等、当該金額の重要性が乏しい場合の評価は、低価法によらないことができるものとされています。

【移行実務の留意点】

低価法を適用するに当たり、帳簿価額と比較する時価をどのように取得するか、事前に検討しておく必要があります。

減損会計の導入
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • 減損会計を導入する。
  • 導入するのは、公営企業型地方独法における減損会計と同様の減損会計である。
【解説】

減損会計とは、固定資産の帳簿価額が実際の収益性や将来の経済的便益に比べ過大となっている場合に、適正な帳簿価額まで簿価を切り下げ、貸借対照表が経営状況をより適切にあらわすようにするというものです。既に企業会計・地方独法会計においては導入されており、今回多額の固定資産を保有する地方公営企業においても、財政状態を適正に表示する目的で導入されることとなりました。

減損会計の方法は、以下の4つのステップに分けられます。上流のステップで減損が不要と判定された場合は、次のステップに進む必要はなくなります。

  1. (1) グルーピング:他の固定資産又は固定資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最少の単位ごとにグループ化し、(2)以降の判定を行う。
  2. (2) 減損の兆候の判定:2期連続赤字もしくはキャッシュ・フローがマイナス、回収可能価額の著しい低下、経営環境の著しい悪化、市場価額の著しい下落(50%程度以上)の4つの指標のいずれかに該当する場合、(3)へ進む。
  3. (3) 減損損失の認識の判定:減損の兆候があると判定された資産について、将来キャッシュ・フローを算定し、それが帳簿価額を下回る場合は、(4)へ進む。
  4. (4) 減損損失の測定:帳簿価額と回収可能価額((3)の将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いた使用価値もしくは正味売却価額のいずれか大きい方)の差額を減損損失とする。

なお、上記のような減損会計の基本的な枠組みは企業会計と同様ですが、将来キャッシュ・フローに一般会計や他の特別会計からの繰入金を含むことや、将来キャッシュ・フローの見積もり期間が企業会計のように20年以内とはされていない、といった点など地方公営企業会計へ配慮した規定がなされています。

【移行実務の留意点】

まずはどのような資産グループで判定を行うか、検討が必要です。また、減損会計は将来キャッシュ・フローや割引率を利用する必要があるなど、見積りの要素が多いため、検討が難しいという特徴があること、もしも減損損失の計上が必要となった場合に影響金額が大きくなる傾向があることなどから、事前にシミュレーションを行っておくことが望まれます。

リース会計の導入
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • リース会計を導入する。
  • 中小規模の地方公営企業においては、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる。なお、この場合は、未経過リース料を注記する。
【解説】

リース会計とは、賃貸借契約であっても、その経済的実態が物件の売買を行ったときと同様である場合には、売買を行ったかのように会計処理を行うというものであり、借手においてはリース資産を固定資産計上するとともに、今後支払うリース料のうち利息相当額を除いた金額をリース債務として負債計上することとなります。

売買処理を行うか否かについては、主にリース契約を以下の区分に分類し、会計処理を選択することとなります。

◆ファイナンス・リース

ノンキャンセラブル(リース期間中、実質的に中途解約不能である)・フルペイアウト(リース物件からもたらされる便益・コストを全て借手が享受・負担する)の2つの要件をいずれも満たすリース取引をいいます。リース期間経過後に所有権が借手に移転するか否かで、さらに以下の2つのケースに分けられます。

  • 所有権移転外ファイナンス・リース
  • 所有権移転ファイナンス・リース

◆オペレーティング・リース

ファイナンス・リースに該当しないリース取引をいいます。

それぞれに適用する会計処理は、ファイナンス・リース取引については基本的には売買処理、オペレーティング・リース取引については賃貸借処理となりますが、重要性に応じてリース料のうちの利息相当額の取扱いや、リース資産の減価償却の方法に簡便的な処理が認められるなど、以下のような詳細なルールが定められています。

【出所 「地方公営企業会計制度見直しについて(平成24年1月総務省自治財政局公営企業課)」より】

(画像をクリックすると、大きく表示されます)

また、病院事業を除く中小規模の地方公営企業(地方公営企業法第2条第1項各号に掲げる事業であって、地方公営企業法施行令第8条の2の管理者を置かなければならない企業に該当しないもの)における所有権移転外ファイナンス・リースについては、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができるとされており、従来通りの処理によることも認められています。ここで、新地方公営企業会計が強制適用される水道、工業用水道、交通、電気、ガスの全事業者(病院事業は当該特例がないため除く)のうち大規模企業にあたるのは全体の3.5%程度(平成20年度実績より)であり、売買取引が強制されるのはごく一部となると思われます。しかしながら、所有権移転ファイナンス・リース取引についてはこの特例処理が認められない点については注意が必要です。

【移行実務の留意点】

移行にあたっては、原則として新基準適用前に契約したリース契約についても、当初からリース会計を適用していたかのように処理を行う必要があります(ただし、所有権移転外ファイナンス・リース契約については簡便的な処理も認められています)。そのため、現在あるリース契約をリストアップし、それぞれどのような会計処理が適用されるリース契約であるかを事前に判定する必要があります。

セグメント情報の開示
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • セグメント情報の開示を導入する。
  • 開示すべきセグメント情報は、セグメントの概要、営業収益、営業費用、営業損益金額、経常損益金額、資産、負債、その他の項目とする。
  • セグメントの区分は、事業単位の有無も含め、各地方公営企業において判断することとし、企業管理規程で区分方法を定めるものとする。
【解説】

事業ごとの業績評価を明確にし、経営分析を適切に行えるようにするため、セグメント情報の開示が導入されました。

【移行実務の留意点】

新たに作成が求められる資料であるため、どのようなセグメント区分とするのかを決定するとともに、開示すべき各項目がセグメント別に分けられるように準備を行う必要があります。

キャッシュ・フロー計算書の導入
【Point】
企業会計と整合させた部分 地方公営企業の特性に配慮がなされた部分
  • キャッシュ・フロー計算書の作成を義務付ける。
  • キャッシュ・フロー計算書における「資金」は、貸借対照表における「現金・預金」と同定義とする。
  • 法第31条に基づく毎月の報告の具体的方法については各団体の裁量とされ、必ずしもキャッシュ・フロー計算書の作成は義務付けられていない。
【解説】

資金繰り状況を明確にし、経営分析に資するよう、キャッシュ・フロー計算書の作成が義務化されました。

キャッシュ・フロー計算書は業務活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローの3つの区分に分け、それぞれの活動により資金がどのように増減したかを示すものです。業務活動によるキャッシュ・フローの作成方法について、直接法と間接法の2つの方法から選択できます。

【移行実務の留意点】

新たに作成が求められる資料であり、キャッシュ・フロー計算書を作成するためには、従来の会計情報を組替えて作成することが必要となるため、事前にその方法を吟味しておく必要があります。また、システムを利用する場合にはシステム上の対応を早期に行う必要があります。

3.まとめ

以上のように、今回の地方公営企業会計制度の改正による財務諸表への影響は非常に多岐に渡るため、新制度への移行に当たっての準備はできるだけ早く、計画的に行うことが必要と考えられます。

また、改正基準に基づき作成された財務諸表は概して負債が増加し、資産が減少する傾向にあります。そのため、財政健全化法や地方財政法に定められる資金不足比率を悪化させることになります。この点について、資金不足比率への算入猶予の経過措置などが定められている項目もありますが、それも一時的なものであるため、各団体において、改正後の新公営企業会計基準に基づき作成された財務諸表を吟味し、今後の経営方針を検討することが望まれます。

参考資料

以上

太陽ASG有限責任監査法人

公認会計士 中田 陽子
text : yoko nakata

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