1.はじめに

前回のマンスリーレポートに引き続き、「会社法制の見直しに関する中間試案(以下、中間試案)」及び「会社法制の見直しに関する要綱案(以下、要綱案)」を基に、会社法の改正に向けた動きについて、今回はM&A・組織再編に関する規律の解説を行います。なお本稿の意見に関する部分は筆者の個人的見解であること、及び関連する法令等は2012年11月現在の状況に基づいており、今後の諸般の動向により変更が生じる可能性があることを、あらかじめお断りします。

2.M&A・組織再編に関する規律の見直し

(1)キャッシュ・アウト制度の見直し
現行のキャッシュ・アウト制度の課題

合併(会社法748条)や株式交換(会767条)により組織再編を行う場合、通常、合併では消滅会社の株主に対して存続会社の株式を、株式交換では完全子会社化される会社の株主に対して完全親会社の株式を交付します。しかしながら、組織再編後も引き続き少数株主が存在する場合、迅速な経営が難しくなる可能性がある上に、少数株主に対するIRコストも生じます。この問題に対応するため、現会社法では組織再編の対価の柔軟化が行われ、株式の代わりに金銭を対価として交付するいわゆるキャッシュ・アウトの実施により、少数株主を締め出すことが可能となっています。キャッシュ・アウトの方法としては、少数株主に対して金銭を直接交付する方法(会749条1項2号ホ、会768条1項2号)と、全部取得条項付種類株式の取得又は株式併合により少数株主が保有する株式の全てを一旦は端株とした上で、その全てを買取る方法(会234条、会235条)の2通りがあります。しかしながら、少数株主に対して金銭を直接交付する方法は、税法上は非適格組織再編とみなされるため、完全子会社の保有資産を時価評価する必要があり、評価損益に対する課税が生じます。このため、課税コストの発生を避けるべく、現状では株式併合又は全部取得条項付種類株式の取得を利用したキャッシュ・アウトが主流となっています。しかしながら、全部取得条項付種類株式又は株式併合を利用したキャッシュ・アウトを行う場合は、常に株主総会の特別決議が要件とされているため、キャッシュ・アウトの迅速な実施が難しくなります。

さらに、存続会社又は完全親会社がその地位を利用して自己に有利な取引条件でキャッシュ・アウトを行った場合、少数株主の利益が害されるおそれがあります。これを防ぐため、キャッシュ・アウト制度の設計にあたっては少数株主の利益保護が重要な課題となります。しかしながら、全部取得条項付種類株式、株式併合の双方とも、本来はキャッシュ・アウトを目的として創設された制度ではないため、株主保護のための情報開示制度が不十分であり、差止め請求の制度も整備されていないなどの不備が指摘されています。

特別支配株主の株式等売渡請求制度の創設等

これらの課題に対応するため、中間試案では新たなキャッシュ・アウト制度として、特別支配株主(10分の9以上の議決権を持つ株主)による株式等売渡請求制度の創設が提案され、要綱案においてもそれが引き継がれています。これは対象会社の承認を受けることを要件に、特別支配株主が対象会社の少数株主に対して株式及び新株予約権の売渡を請求できるものです。この場合、株主総会においても承認が得られることは明らかであり、株主総会決議の省略が可能とされています。一方で少数株主の権利保護のため、承認をした対象会社は取得日の20日前までに売渡株主等に通知又は広告を行うとともに、取得日後6か月(公開会社以外は1年)を経過するまでの間、請求に関する書面等を備え置き、売渡株主等の請求に応じて開示することを義務付けるとしています。また、売渡株主が不利益を受けるおそれがある場合の差止請求制度や売買価格の決定の申立ての制度を併せて整備することも提案されています。

一方、株式併合及び全部取得条項付種類株式の取得についても、株式等の売渡請求とほぼ同様の水準で情報開示制度及び差止請求制度を整備することが提案されています。また従来、株主でなくなったものは訴えを持って決議の取消を請求することができませんでしたが、不当なキャッシュ・アウトが行われた際に株主としての地位を失うことになる者の権利の保護を図るため、株主総会等の決議の取消しにより株主の地位を回復できる者については、訴えをもって当該決議の取消しを請求できるものとしています。

(2)組織再編における株式買取請求等の規程の整備
買取口座制度の創設

現会社法においては、株式買取請求(会785条、会797条、会806条)を行った株主について、請求後は対象会社の承諾なくして請求の撤回ができない旨が定められています(会785条6項)。これは株式買取請求を行いながら、一方で市場価格の動向次第で買取請求を撤回して市場で株式を売却するという投機的行動をとる株主の出現を防ぐことを目的としています。しかしながら、「社債、株式等の振替に関する法律140条」によれば、上場株式の電子化に伴い株式の売買の効力は振替口座間の振替により生じるとされているため、現状では現会社法における規程は形骸化されています。このような法令間の不整合を解消するため、中間試案及び要綱案において買取口座制度の創設が提案されました。この制度では、組織再編を行う株式会社に対しては、組織再編時に株式振替機関への買取口座の設定を義務付ける一方で、株式買取請求を行った株主に対しては、請求とともに対象株式について買取口座への振替の申請を義務付けるとしています。これにより、請求を行った株主が請求を撤回する場合にも、対象会社が請求の撤回を承諾しない限り買取口座から株式を振り替えることができないことになり、請求者が対象会社の承諾なしに対象株式を他に売却することも不可能となります。

価格決定前の支払制度

現会社法において、株式買取請求がなされた株式について裁判所の価格決定により対象会社が株主に買取代金を支払う際には、買取代金に加え組織再編の効力発生日又は設立会社の設立日から支払日までの法定利息(年6分)を加えた金額を支払う必要があります(会786条4項)。現在の経済情勢を勘案するとこの法定利息は高率といえ、会社に過度の負担を生じさせるだけではなく、投機的行為による株式買取請求を誘発するおそれがあります。これを防ぐため、中間試案及び要綱案では価格決定前の支払制度が新たに提案されています。これは株式買取請求が行われた時点で株式の公正な価格と認められる額をあらかじめ仮払いした上で、価格決定後に仮払額との差額について法定利息を加えた金額を清算するものです。これにより会社の負担の軽減を図ることが可能になります。

簡易組織再編、簡易事業譲渡における株式買取請求

現会社法では、簡易組織再編(会796条3項)又は簡易事業譲渡(会468条2項)が行われる場合、消滅会社又は吸収会社の反対株主のみならず、存続会社又は譲受会社の反対株主に対しても株式買取請求権が認められています。しかしながら、簡易組織再編及び簡易事業譲渡が存続会社又は譲受会社の株主に与える経済的影響は、ほとんどの場合、軽微であると考えられます。中間試案及び要綱案において、存続会社又は譲受会社の反対株主に対する株式買取請求権を認めないようにすることが提案されています。

(3)会社分割時の債権者保護手続の拡充
詐害的な会社分割等における債権者の保護

会社分割(会757条、会762条)は事業の再構築の手法の一つとして広く行われていますが、実質的な債務超過に陥った会社の再生手法として、会社分割により事業を承継会社に移管するとともに、既存の会社を債務管理会社とする手法も用いられています。このような場合に債権者の利益保護をはかるため、債権者異議手続制度が現会社法においても定められています(会799条1項2号、会810条1項2号)。しかし一方で、会社分割の後に事業承継会社が第三者割当増資等を実施し、債務管理会社の債権者から承継会社へ支配が及ばないようにすることで、債務の履行から逃れようとする詐害的会社分割の事例も発生しています。

このような詐害的会社分割に対しては、従来は民法424条の詐害行為取消権により債権者が訴えを提起できると考えられていましたが、中間試案及び要綱案では、会社分割時の債権者の利益保護をさらに充実させるため、新たな制度が提案されました。これは吸収分割会社又は新設分割会社(以下、分割会社)が吸収分割承継会社又は新設分割設立会社(以下、承継会社)に承継されない債務の債権者(以下、残存債権者)を害することを知っていて会社分割を行った場合、残存債権者が承継会社に対して、承継した財産の額を限度に当該債務の履行を請求できるものです。ただし、吸収分割の際に承継会社が残存債権者を害する事実を知らなかった場合は、承継会社が免責される旨の規程も併せて設けるとしています。

分割会社に知れていない債権者の保護

会社分割が行われる際には、分割会社の不法行為によって生じた債務の債権者に対して常に各別の催告が行われますが(会789条3項、会810条3項)、分割時点では被害が顕在化していなかった不法行為の債権者に対しては通常、各別の催告が行われません。もし、吸収分割契約又は新設分割計画において会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できないとされた場合、不法行為による被害が分割後に顕在化した際も債務の請求ができないことになります。このような事態を防ぐため、吸収分割契約又は新設分割計画において、会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できないとされる場合においても、不法行為によって生じた債務の債権者については、承継会社に対して分割会社が会社分割の効力発生日に有していた財産の価額を限度に債務の履行を請求する権利を付与することが提案されています。さらに、会社分割に異議を述べることができる分割会社の債権者であるにもかかわらず、各別の催告を受けなかった債権者についても、承継会社に対して同様の請求を行う権利を付与することが提案されています。

(4)今後の見通し

M&A・組織再編の規定の見直しにあたっては、手続の迅速化や法的安定性が求められる一方で、少数株主や債権者の権利保護も重要な課題となります。今後の見直しにあたっても両者に配慮しつつ、企業活動の活性化を図る必要があります。

以上

太陽ASG有限責任監査法人

公認会計士 竹田 英秋
text : eishu takeda

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