3月決算会社にあっては、現在、期末決算に向けた準備を進めているところと思います。

2013年3月期は、特に新会計基準の適用はないものの、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(以下、過年度遡及会計基準という)が適用2年目を迎え、徐々に実務慣行が形成されており、また「包括利益の表示に関する会計基準」が2012年6月に改正されている(改正後の「包括利益の表示に関する会計基準」を以下、改正包括利益会計基準という)ことから、これらの会計基準等についての実務上の留意事項を解説します。また、「連結財務諸表に関する会計基準」が連結の範囲に関する特別目的会社の取扱いについて改正されており(改正後の「連結財務諸表に関する会計基準」を以下、改正連結会計基準という)、強制適用は来期からであるものの、当期からの早期適用も可能であるため、その改正内容と実務上の留意事項を解説します。このように、2013年3月期は、新会計基準の影響はあまりないものの、昨今の税制改正(2011年12月の法人税法改正及び2011年6月の消費税法改正)に関しては、2013年3月期決算に少なからず影響を及ぼす項目があるため、この点についても解説します。さらに、昨今の企業環境を踏まえ、その他当期決算において特に留意すべき項目についても解説します。

なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。

1. 過年度遡及会計基準

過年度遡及会計基準は、前期から適用されており、Monthly Reportでも数回(Vol.21~23及びVol.33)にわたり解説しています。2012年5月14日には「比較情報の取扱いに関する研究報告」(中間報告)が公表され、実務上特に該当するケースが多いと思われる表示方法の変更に関連するQ&Aが出されていることから、今一度、比較情報の取り扱いを中心に実務上、留意すべき事項について解説します。

ここで、比較情報とは、当事業年度に係る財務諸表(附属明細表を除く)に記載された事項に対応する前事業年度に係る事項をいい、以下を基本的な考え方としています。

  • 当事業年度に係る財務諸表において記載されたすべての数値について、原則として、対応する前事業年度に係る数値を含めなければならない。
  • 当事業年度に係る財務諸表の理解に資すると認められる場合には、前事業年度に係る定性的な情報を含めなければならない。

なお、比較情報の取扱いの詳細についてはMonthly Report Vol.40を参照下さい。

(1) 概要

これまで何度も登場してはいますが、過年度遡及会計基準の基本的な考え方は以下のとおりです。

なお、過去の誤謬の訂正で金額的な重要性がある場合は、前期数値を修正再表示すればよいというわけではなく、訂正報告書の提出が求められている点には留意が必要です(「監査基準委員会報告書第63号『過年度の比較情報-対応数値と比較情報』の公表について」常務理事前書(2011年7月1日 日本公認会計士協会))。

(2) 実務上の留意事項
比較情報に関する留意事項
1. 会計方針の変更と表示方法の変更について

会計処理の変更に伴う表示方法の変更は『会計方針の変更』として取り扱い、会計処理の変更を伴わない表示方法の変更(表示区分を超える変更を含む)は、『表示方法の変更』として取り扱うこととなります 。ここで、会計処理の変更は、資産及び負債並びに損益の認識又は測定についての変更を意味します。

したがって、例えば、不動産賃貸収入の表示を単に営業外収益から売上に変更するだけであれば『表示方法の変更』となりますが、売上高の表示に関して、売上高と売上原価の総額表示を純額表示に変更する場合には、損益の認識又は測定の変更を伴うものであるため、『会計方針の変更』となります。

2. 注記の方法の変更について

表示方法には財務諸表の作成に当たって採用した注記による開示の方法が含まれるため、注記の方法の変更は、『表示方法の変更』に該当し、原則として財務諸表(注記)の組替えが必要となります。

したがって、例えば、販売費及び一般管理費の表示について、損益計算書では「販売費及び一般管理費」の科目で一括掲記し、その主要な費目及びその金額を注記している場合において、前事業年度に「その他」として注記していた費目の重要性が当事業年度において高まって別掲するときには、比較情報としての前期の注記を組み替え、原則として表示方法の変更に関する注記を行うことになります。なお、注記すべき事項に重要性が乏しい場合には、注記を省略することもできるとされています。これまでの実務においては、注記方法の変更に関しては、あまり登場することがなかったかと思いますが、該当する場合にはその取扱いには留意が必要です。

3. 重要性に応じた別掲表示について

実務上、該当するケースが多いと思われる営業外損益又は特別損益項目の別掲表示(例えば、固定資産売却損益)において、前事業年度と当事業年度における重要性が変化した場合の取扱いは次のようになります。

(ア) 表示方法を変更するものの、表示区分は変更しないケース

前事業年度と当事業年度において営業外損益又は特別損益という表示区分は変更しないものの、「その他」から「固定資産売却損益」として別掲表示する、又は「固定資産売却損益」としての別掲表示から「その他」として一括表示することにより表示方法を変更する場合には、財務諸表の組替えを行い、所要の注記を行うことになります。

(イ) 表示区分を変更するケース

前事業年度と当事業年度のいずれも固定資産売却損益が発生しているものの、その重要性が変化したことにより、前事業年度においては特別損益(又は営業外損益)で表示することが適切であったものが、当事業年度においては営業外損益 (又は特別損益)で表示することが適切となった場合には、表示方法の変更には該当せず、財務諸表の組替えは行わないものと考えられます。

(ウ) 前事業年度において発生がなかったケース

前事業年度において固定資産売却損益が発生しなかったものの、当事業年度において発生した場合には、前事業年度の該当科目は「-」として表示し、当事業年度はその重要性に応じて営業外損益又は特別損益において別掲又は「その他」として一括表示します。

(エ) 当事業年度において発生がなかったケース

前事業年度において固定資産売却損益が発生していたものの、当事業年度においては発生がなかった場合で、前事業年度において営業外損益又は特別損益で別掲していたときは、当事業年度の該当科目は「-」として表示し、営業外損益又は特別損益の「その他」として一括表示していたときは、特段の対応は不要であると考えられます。

4. 新規に連結財務諸表を作成する場合について

他の会社の支配を獲得した等の理由により新たに連結財務諸表を作成する場合には、当連結会計年度に対応する比較情報が存在しないため、比較情報の開示の必要はありません。また、当連結会計年度に対応する比較情報が存在しないことから、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項に関する変更(会計方針の変更)については記載の必要がなく、たとえ、支配を獲得した子会社が当連結会計年度において会計方針の変更を行っていたとしても不要となります。ただし、親会社の個別財務諸表において会計方針の変更が行われている場合には、当該変更に関する注記が必要になります。

5. 非連結子会社の重要性が増した場合について

連結会計年度の途中で非連結子会社の重要性が高まったことに伴い、年度の途中から連結の範囲に含めた場合、期首から連結していたものとして当該子会社の損益を取り込むことになります。この場合、連結の範囲の変更は、会計方針の変更に該当しないことから、遡及適用はされません。したがって、比較情報としての前連結会計年度に係る連結財務情報は遡及処理されず、当該子会社を連結の範囲に含めていないものを開示することになります。

6. 決算日変更について

決算日の変更は会計方針の変更には該当しないため、遡及適用はされず、比較情報としては前連結会計年度に係る連結財務情報を記載することになります。

例えば、12月決算であった子会社が、親会社に合わせて3月決算に変更して15ヶ月決算を組む場合、決算日変更に伴うズレに相当する3ヶ月の子会社の損益については、利益剰余金で調整する方法と、連結損益計算書を通して調整する方法があります。

なお、やむを得ず第4四半期に決算日の統一を行う場合は連結損益計算書で調整する方法のみ採用でき、実施した会計処理の概要のほか、その理由も記載することが適当と考えられます。

税務との関係について

税務調査が実施され、過年度決算に係る追徴税額又は還付税額が過去の誤謬に起因すると判断される場合には、金額的な重要性によっては、訂正報告書の提出を検討する必要があります。

また、法人税の確定申告は「確定した決算」に基づくため、過年度遡及会計基準に基づく遡及処理は過去に「確定した決算」を修正するものではなく、遡及処理が行われた場合でも、その過年度の確定申告において誤った課税所得の計算を行っていた(例えば、過年度の売上計上漏れ)のでなければ、過年度の法人税の課税所得の金額や税額に対して影響を及ぼすことはありません。ただし、遡及適用及び修正再表示を行う結果、利益剰余金の前期末残高と当期首残高が不一致となることから、税務上は、当期の法人税申告書別表において所要の調整を行うことが必要となる点には留意が必要です(「法人が『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を適用した場合の税務処理について」(2011年10月20日 国税庁)問2~問8参照)。

特別損益の取り扱いについて

過年度損益修正や、貸倒引当金の戻入益等は、特別損益計上が原則として認められないことと整理されたため、特別損益区分には臨時的な損益のみが計上対象となっています。したがって、特別損益区分に計上しようとしている取引がある場合には、計上区分の適切性について事前に監査人と協議する必要があると思われます。

未適用の会計基準等の注記について

既に公表されている会計基準等のうち、適用していないもの(貸借対照表日までに公表されている会計基準等が記載対象となります。その後に公表されたものも記載することは可能です。)がある場合、当該会計基準等の名称及び概要、適用予定日(早期適用する場合には早期適用予定日)、当該会計基準等が財務諸表に与える影響に関する事項(定量的に把握している場合には、その金額を記載し、把握していない場合には定性的に記載)を注記する必要があります。

3月決算会社にあっては、前期は、多くの企業では、該当がなかった項目と思いますが、当期においては、2012年5月に「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第25号)が公表されていることから、重要な影響が想定される場合には、当該基準及び適用指針が注記対象となります。

2. 改正包括利益会計基準

(1) 改正内容

企業会計基準委員会は、2012年6月29日に改正包括利益会計基準を公表しています。これは、企業会計基準委員会が、2010年6月30日に公表した包括利益会計基準上で「本会計基準の個別財務諸表への適用については、本会計基準の公表から1年後を目途に判断する」とされていたことを受けての改正となっています。主な改正内容は、以下のとおりです。

  • 個別財務諸表には当面の間適用しない。
  • 為替予約の振当処理から生じる繰延ヘッジ損益については、組替調整額及びこれに準じた開示は必要がないことが明文化された。

なお、「包括利益計算書」の名称の変更の検討も行われましたが、結果、現行の名称は維持されることとされています。

(2) 実務上の留意事項

当該改正は、これまでの考え方を改めて確認したものにすぎないため、2013年3月期決算において特に実務への影響はないものと考えられます。

なお、為替予約の振当処理に係る組替調整に関連して、公開草案に対する意見の中で、金利スワップに特例処理を採用している場合の取扱いについて明確化を求めるコメントも含まれていましたが、この点、金利スワップの特例処理の場合、繰延ヘッジ損益は発生しないため、その他の包括利益の金額は発生せず、組替調整額の注記は必要がないと考えられます。

3. 改正連結会計基準

(1) 改正内容
特別目的会社の取扱い

連結の範囲における特別目的会社の取扱いが一部改正されています。従来から、支配しているかどうかの判断規準の例外として、一定の要件を満たす特別目的会社は、当該特別目的会社に対する出資者及び当該特別目的会社に対する資産の譲渡者の子会社に該当しないものと推定するという取扱い(以下、推定規定という)が定められていました。今回の改正では、この例外規定を、資産の譲渡者のみに適用することとなりました。

ノンリコース債務の開示

連結の範囲に含めた特別目的会社のノンリコース債務(当該特別目的会社の資産及び当該資産から生ずる収益のみを裏付けとし、他の資産等へ遡及しない債務)を、連結貸借対照表上、他の項目と区別して記載する(注記でも可)ことになります。また、ノンリコース債務に対応する資産について、当該資産の科目及び金額を注記することになります。

(2) 実務上の留意事項

これまで特別目的会社を連結範囲に含めるかどうかについて、推定規定を適用していた場合には、再度推定規定を適用することが可能かどうかの判断が必要となります。2014年3月期期首からの強制適用となるために、期首時点で従来からの特別目的会社を連結の範囲に含めるか否かの検討を終えておく必要があります。

4. 改正法人税法関連

2011年12月の改正法人税法に伴う会計上の取扱いについては、Monthly Report Vol.36においてもすでに取り上げており、前期決算の税効果の算定においてすでに対応済みのことと思います。しかしながら、法人税の計算の上で実際に影響が出るのは2013年3月期であることから、当期において影響を及ぼす主な項目について、今一度、実務上の留意事項を解説します。

(1) 法人税率について
改正内容

改正法人税法により、2013年3月期から法人税率が、30%から25.5%に引き下げられ、また2013年3月期から2015年3月期までの間は、復興財源確保法による復興特別法人税が課税されます。復興特別法人税の課税標準は基準法人税額(各種税額控除を考慮しないで計算した法人税額(付帯税額を除く))であり、これに10%を乗じたものが税額となります。

実務上の留意事項~税率差異の検証

法人税の計算上、適用される法人税率が当期から変わるとともに、法定実効税率(東京都の場合)も従来の40.69%から38.01%に変わることから、税率差異の検証の際にはベースが38.01%となる点に留意が必要です。

(2) 欠損金の繰越控除制度の見直し
改正内容

2012年4月1日以後開始事業年度の欠損金及び災害損失金の繰越控除限度額が、繰越控除前所得金額の80%相当額に制限されました。一方で、2008年4月1日以後終了事業年度において生じた欠損金及び災害損失金の繰越期間が、7年から9年に延長されました。

実務上の留意事項~当期末に繰越欠損金の発生が見込まれる場合

当期において、初めて税務上の繰越欠損金の発生が見込まれる場合には、繰越欠損金の控除限度額が繰越控除前の所得の金額の100%ではなく80%相当額に制限される点に留意してスケジューリングを実施する必要があります。

(3) 250%定率法の見直しについて
改正内容

減価償却資産について定率法を採用している場合で、2012年4月1日以後に新たに取得した減価償却資産の減価償却方法が、定額法の償却率を2.5倍した償却率による方法(以下、250%定率法という)から、定額法の償却率を2.0倍した償却率による方法(以下、200%定率法という)に改正されました。

また、250%定率法を採用している既存の減価償却資産についても2012年4月1日以後最初に終了する事業年度の申告期限までに届出をすることにより200%定率法に変更できるものとされています。

実務上の留意事項~会計方針の変更の取扱い

従来、法人税法に規定する普通償却限度額を正規の減価償却として処理している企業において、2007年3月31日以前に取得した減価償却資産については、旧定率法を採用し、かつ、2007年4月1日以後新たに取得した減価償却資産について、250%定率法を採用していた場合に、2012年4月1日以後新たに取得した減価償却資産について、200%定率法を採用した場合には、法令等の改正に伴う変更に準じた会計方針の変更として取り扱うことができます。

多くの企業は上記に該当するものと思われますが、これ以外のパターンで減価償却方法を変更している場合には、自発的な会計方針の変更として、正当な理由が必要であり、法人税法の改正だけでは正当な理由には該当しない点には留意が必要です。

なお、「正当な理由」に関しては、当該会計方針の変更が、企業の事業内容または企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること、会計事象等を財務諸表により適切に反映するために行われるものであること、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に照らして妥当であること、利益操作等を目的としないこと、当該事業年度に変更することが妥当であること、といった観点から総合的に勘案されることになります。

(4) 貸倒引当金制度の見直しについて
改正内容

貸倒引当金制度の適用が、中小法人等、銀行・保険会社その他これに準ずる法人、売買があったものとされるリース資産の対価の額に係る金銭債権を有する法人等に限定されることになりました。

ただし、上記以外の法人においても当面の間は貸倒引当金制度を適用できるようにするため、以下のとおり、年度に応じた繰入限度額の経過措置が設けられています。

  • 2012年4月1日から2013年3月31日に開始する事業年度:現行規定の4分の3
  • 2013年4月1日から2014年3月31日に開始する事業年度:現行規定の4分の2
  • 2014年4月1日から2015年3月31日に開始する事業年度:現行規定の4分の1
実務上の留意点~一時差異等が増加

会計上は従来どおり繰り入れが行われることになるため、貸倒引当金の繰入限度超過額が今後段階的に増加していくこととなり、税効果会計における将来減算一時差異が増加していくことになります。2016年3月期からは、会計上の貸倒引当金の繰入額全額が将来減算一時差異となり、賞与引当金や退職給付引当金と同様の税務上の取扱いとなります。税効果会計におけるスケジューリングの考え方も従来と変わることはないため、実務に与える影響は小さいと考えられます。

5. 改正消費税法関連

2011年6月の改正消費税法についても、既に四半期決算で対応済みではあると思いますが、95%ルールの見直しは、ほとんどの企業で影響を受ける項目であることから、今一度その内容と実務上の留意事項を解説します。

(1) 改正内容

2011年6月30日付で公布された改正消費税法により、2012年4月1日以後開始する課税期間から課税売上高が5億円を超える課税事業者について、課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除することができなくなりました。従来は、課税売上割合が95%以上の場合には、課税仕入れ等に係る消費税額の全額が控除されていましたが(以下、95%ルールという)、今後、課税仕入れ等に係る消費税額は、個別対応方式又は一括比例配分方式のいずれかの方式によって計算を行い、結果として控除対象外消費税が生じることとなります。

(2) 実務上の留意事項
重要な会計方針の注記への記載について

課税売上割合が95%以上であっても、課税売上高が5億円を超える課税事業者について95%ルールの適用はされないこととなったため、ほとんどの企業において控除対象外消費税等が発生することになります。控除対象外消費税の会計処理としては、資産取得に係るものを除き、販売費及び一般管理費の租税公課として費用計上されます。その一方で、資産取得に係る控除対象外消費税の会計処理方法は3通りの方法(発生年度の期間費用とする方法、対象資産の取得原価に算入する方法、固定資産等に係るものを一括して長期前払費用として費用配分する方法)が考えられるため、金額的な重要性が大きい場合には、この資産取得に係る控除対象外消費税の会計処理について、重要な会計方針としての記載を行うか検討が必要となります。

控除対象外消費税の金額が確定しない場合について

個別対応方式を採用している場合などで控除対象外消費税額の計算が決算確定時までに完了しないと見込まれる場合には、合理的な見積計算が必要となるため、事前に決算確定スケジュール、見積計算の要否及び見積計算を行う場合にはその見積方法を確認しておく必要があります。

6. その他

昨今の企業環境を踏まえ、既に実務に適用されている基準等の中から、特に会計上の見積りを必要とする項目を中心に、当期決算において留意すべき事項について解説します。会計上の見積りを必要とする項目は、各企業の判断が介在するため、論点となりやすく、したがって、事前に監査人と十分に協議を行う必要があります。なお、2012年3月30日に金融庁から「有価証券有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項と有価証券報告書レビューの実施について」が公表されており、重点テーマとして、無形固定資産(のれんの計上額を含む)の評価、投資有価証券(ファンドに対する投資を含む)の評価、関連当事者取引(役員に対する貸付を含む)といった項目があげられていることからも、特に会計上の見積りに関する論点は、監査人が注目している項目の一つといえます。下記は全てを網羅したものではないですが、特に下記のような項目に該当する事項がある場合には、留意が必要です。

(1) 債権の評価
簡便的な方法で個別引当を計上している場合について

過年度において簡便的な方法を用いて引当を実施している場合(例えば、担保の処分見込額及び保証による回収見込額を控除した残額の50%を引き当てる方法など)には、当期の状況を踏まえ、回収不能見込額を見直す必要があります。

(2) 有価証券の評価
時価のある株式の評価について

時価の下落率が30%~50%未満の場合には、状況に応じ個々の企業において時価が「著しく下落した」と判断するための合理的な基準を設け、当該基準に基づき回復可能性の判定の対象とするかどうかを判断することになります。当該合理的な基準がない場合には、「金融商品に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)を参考に基準を設ける必要があります。

時価を把握することが極めて困難と認められる株式の評価について

時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の評価については、実質価額が著しく低下した場合に減損処理を行う必要があります。

ただし、子会社や関連会社等(特定のプロジェクトのために設立された会社を含む)の場合には、財務諸表を実質ベースで作成したり、事業計画等に基づいて、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められています。この場合、事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行うことになります。また、回復可能性は毎期見直すことが必要であり、その後の実績が事業計画等を下回った場合など、事業計画等に基づく業績回復が予定どおり進まないことが判明したときは、その期末において減損処理の要否を検討しなければなりません。

なお、子会社や関連会社等に該当しない場合には、実質価額が著しく低下していれば、即減損を実施する必要があります。

(3) 固定資産の減損
資産のグルーピングについて

当期において、事業再編による管理会計上の区分変更、主要資産の処分、セグメンテーションの方法変更などの事象が発生している場合には、資産のグルーピングを見直す必要があります。

減損の兆候の有無に関する判定について

過去2期連続で営業損益(又は営業キャッシュ・フロー)がマイナスとなっている資産グループに対して、当期も赤字が見込まれることが確実な場合には、事業計画等の数値を利用して割引前将来キャッシュ・フローを見積り、減損の要否の検討を始める必要があります。この場合に使用する事業計画等の数値は、繰延税金資産の回収可能性の判断における一時差異等のスケジューリングの際に用いる事業計画等と整合するものでなければなりません。事業計画等で利益が見込まれる場合には、その実現可能性について十分な説明が必要となります。

(4) 資産除去債務
割引前将来キャッシュ・フローの変更について

当初の見積りから状況が変化し、新たに入手可能となった情報に基づいて将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が必要となった場合には、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減し、減価償却を通じて残存耐用年数にわたり費用配分します。つまり、過年度の遡及修正は行わずに将来に向かって修正する考え方となります。

この際、使用する割引率には留意が必要です。割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じ、当該キャッシュ・フローが増加する場合には、新たな負債の発生と同様のものとして、その時点の割引率を適用します。

これに対し、当該キャッシュ・フローが減少する場合には、負債計上時の割引率を適用します。ただし、過去に割引前の将来キャッシュ・フローの見積りが増加した場合で、減少部分に適用すべき割引率が特定できないときは、加重平均した割引率を適用します。

除却時期の変更について

除去時期の見積りに重要な変更が生じた場合(例えば、当初よりも本社移転が早まることが決定されたなど)には、割引率を早期除去決定時点から変更後の除去時点までの期間に応じた割引率に変更して、その割引率で翌期以降の資産除去債務の調整額を算定することになるものと考えられます。

(5) 繰延税金資産の回収可能性
会社区分の見直しについて

当期の損益状況が過年度の状況とは異なっている場合、会社区分の変更の必要性を検討する必要があります。これまで「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号)における会社区分が1号あるいは2号であった場合で、当期に大幅な赤字となり税務上の繰越欠損金が生じているような場合、4号と判断するか4号但し書きと判断するかで繰延税金資産の計上額が大きく異なることとなるため、十分な検討を行う必要があります。

(6) 退職給付債務に係る割引率
重要性の取扱いについて

割引率の変動が退職給付債務に重要な影響を及ぼすと判断した場合には、退職給付債務の再計算が必要です。前期末に用いた割引率により算定されている退職給付債務と比較して、当期末の割引率により計算した退職給付債務の変動率が10%よりも小さいと推定される場合には、重要な影響はないものとして、当期末の割引率を用いず、前期末の割引率をそのまま適用することができます(以下、10%基準という)。

多くの会社では、上記10%基準を採用しているものと思いますが、退職給付会計基準の改正により、2014年3月期末から未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用といった未認識項目は貸借対照表上、即時認識されることになっています。したがって、来期以降は、退職給付債務に10%以上の変動が生じたとたんに退職給付債務の額とその他の包括利益に大きな影響が生じることになるため、10%基準の適用について見直すことも考えられます。

(7) のれんの評価

のれんを計上している場合には、その償却期間の妥当性、取得後において当初の事業計画と実績の乖離がないかといった状況などを確認し、減損の必要性がないか検討する必要があります。取得した子会社等が毎期黒字を計上していたとしても、当初の事業計画に比べて、達成度等が下回っている場合には、減損を行わなければならない可能性があるため、評価に当たっては十分な検討が必要です。

(8) 関連当事者との取引

関連当事者との取引に関しては、監査基準委員会報告550「関連当事者」が当期から適用されており、関連当事者との取引が独立第三者間取引と同等の取引条件で実行された旨を記載している場合、監査人は独立第三者間取引と同等の取引条件で実行されたかどうかについて十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められています。したがって、独立第三者間取引と同等の取引条件である旨を開示する場合には、下記のような方法によりそれを裏付ける必要がある点には留意が必要です。

  • 関連当事者との取引の条件を、関連当事者でない当事者との同一又は同様の取引の条件と比較すること
  • 取引の市場価格の判断及び市場での取引条件の確認のため、外部の専門家に業務を依頼すること
  • 取引条件を、一般市場における概ね同様の取引に係る周知の取引条件と比較すること
  • 以上

太陽ASG有限責任監査法人

公認会計士 杉江 俊志
text : shunshi sugie

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