会計・監査 Report vol.8 2016年3月期の決算留意事項

2016年3月期から適用となる主な会計基準としては、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」及び関連する他の改正会計基準等(以下、改正企業結合会計基準等という。)があります。また、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」も改正されています。さらに、2016年度税制改正に係る改正法が2016年3月29日に国会において成立しましたので、当該税制改正が税効果会計に与える影響についても留意が必要です。なお、これに関連して、2016年3月14日に企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」が公表されていますので、当該内容についても触れていきます。この他、2017年3月期の期首から強制適用となる企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」について、2016年3月期の期末から早期適用も可能であるため、こちらも解説します。最後に最近話題のマイナス金利の会計に与える影響についても触れていきます。

なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。

1.改正企業結合会計基準等及び改正実務対応報告第18号

改正企業結合会計基準等及び改正実務対応報告第18号に関しては、既に当期首から適用されています。会計・監査Report Vol.7において、会計上及び開示上の留意事項を記載していますので、そちらをご参照ください。

2.2016年度税制改正の税効果会計に与える影響

2016年度税制改正に係る改正法案が、2016年3月29日に国会で成立し、3月31日に公布されました。この結果、2015年3月期と同様に、当期末決算の税効果会計に影響を及ぼすこととなりますので、この点について解説します。

(1) 公布日基準から成立日基準へ

2016年3月14日に、企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(以下、税率適用指針という。)が公表されました。従来は、税効果会計で適用する税率は決算日現在における税法規定に基づく税率であり、決算日までに改正税法が公布され、将来の適用税率が確定している場合には、改正後の税率を適用する(公布日基準)ことになっていましたが、これが改正され、決算日において国会で成立している税法に規定されている税率(決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映したもの)を適用する(成立日基準)こととなりました。

また、住民税(法人税割)及び事業税(所得割)(以下、合わせて「住民税等」という。)の税率は、国会で成立した改正地方税法等に規定された標準税率及び制限税率を基に、法人に適用する税率(すなわち、住民税等の標準税率又は超過課税による税率)を規定した改正条例が地方公共団体の議会等で成立することにより変更されます。したがって、地方税法等を改正するための法律が決算日以前に成立していたとしても、当該法律を含む改正地方税法等を受けた改正条例が決算日以前に議会で成立していない場合も考えられることから、税率適用指針においては、この場合の取扱いも明確にされました(下表)。

決算日に成立している条例で
規定されている内容
適用税率
標準税率の場合 改正後標準税率
超過税率の場合 改正後標準税率に、現行条例超過課税率が改正前標準税率を超える差分を考慮する税率で、例えば、以下の方法により算定する(他の合理的な方法があれば認められる)。

①加算する方法

改正後標準税率+(現行条例超過税率-改正前標準税率)

②割合を乗じる方法

改正後標準税率×(現行条例超過税率÷改正前標準税率)

(2) 当期末決算で適用すべき税率

2016年度税制改正に係る改正法は、既述のとおり、2016年3月29日に国会で成立しているため、当期末決算の税効果会計においては、改正後の税率を適用することとなります。

また、地方税法の改正を受けて、事業税に超過税率を採用している地方公共団体(東京都、大阪府、京都府、神奈川県、愛知県、兵庫県、宮城県、静岡県)は全て2016年3月31日までに改正条例が成立・公布されているため、改正条例に規定された税率を適用することとなります。

ただし、大阪府と兵庫県を除き、2017年3月期の税率は決定しているものの、2018年3月期及び2019年3月期以降の税率はまだ決定していません(今後の議会で成立する予定となっています。)。したがって、2018年3月期及び2019年3月期の税率に関しては、税率適用指針に基づき、既に決定している2017年3月期の税率を基礎として計算することになると考えられます。

下表は、東京都かつ外形標準課税適用法人を前提とした場合の法定実効税率です。下線部分はまだ決まっていませんが、上表①の「加算する方法」によれば、2017年3月期の事業税の超過税率が標準税率を超える数値(0.88%-0.70%=0.12%)を2018年3月期以降の事業税の標準税率に加えて算定する(3.6%+0.12%=3.78%)こととなります。

2016年3月期 2017年3月期 2018年3月期 2019年3月期
標準税率 32.11% 29.97% 29.97% 29.94%
超過税率 33.06% 30.86% 30.86% 30.62%
法人税率 23.9% 23.4% 23.4% 23.2%
地方法人税率 4.4% 4.4% 10.3% 10.3%
住民税率
(超過税率)
12.9%
(16.3%)
12.9%
(16.3%)
7.0%
(10.3%)
7.0%
(10.3%)
事業税率
(超過税率)
3.10%
(3.40%)
0.70%
(0.88%)
3.6%
(3.78%)
3.6%
(3.78%)
(3) 繰越欠損金の利用制限に係る改正

2016年度税制改正により、大法人(資本金1億円超の普通法人等)に係る繰越欠損金の利用制限が見直されました。繰延税金資産の回収可能性の検討において、スケジューリング表を作成する際には年度に応じた控除限度割合と適用する法定実効税率に留意が必要です。

2016年3月期 2017年3月期 2018年3月期 2019年3月期
控除限度割合 65% 60% 55% 50%
繰越期間 9年 9年 9年 10年
(4) 税率変更による繰延税金資産・負債の修正額の注記

税制改正の成立日を含む事業年度においては、税率変更による繰延税金資産・負債の修正額の注記が必要となりますが、当期もこれに該当します。当該修正額の算出にあたっては、当期末現在の一時差異及び税務上の繰越欠損金の残高に新税率と旧税率との差額を乗じるものとされています。

(5) 期ずれ連結子会社の取扱い

繰延税金資産(負債)の計上は個々の連結会社(親会社及び連結子会社)ごとに行うため、資本連結手続やその他の連結手続によって生じた一時差異に対しては、当該差異が発生した連結会社ごとに税効果会計を適用します。したがって、連結決算日とは異なる決算日の子会社をそのまま連結する場合には、当該子会社は自社の決算日現在における税率を基礎として税効果会計を適用しますが、連結決算日において正規の決算に準じた合理的な手続によって決算を行ったうえで連結する場合には、当該連結決算日現在の税率を基礎として税効果会計を適用します。

3.繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

従来、繰延税金資産の回収可能性に関しては、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下、66号という。)において実務上の判断が行われていましたが、2015年12月14日に、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針という。)が公表され、繰延税金資産の回収可能性に関する考え方が見直されました。当該適用指針は、2017年3月期の期首から強制適用となりますが、実質的には当期末決算の数字を利用して影響額を算定することとなり、また、当期末決算から早期適用することも可能とされているため、当該内容を把握しておく必要があります。

(1) 企業の分類要件
① 主な改正点

下表は、企業の分類要件について66号と回収可能性適用指針を比較したものですが、主な改正点は以下のとおりです。過去の事象が過度に重視されていたという点が見直されています。

・分類2及び分類3について、利益要件から課税所得要件へと変わりました。

・分類4について、分類の要件の一貫性を持たせる観点から、税務上の繰越欠損金の期末残高を要件としていたものを過去又は当期における発生額に焦点をあてる要件へと変わりました。

・分類4及び分類5について、将来の事象を勘案する観点から、翌期における課税所得(又は欠損金)の見込みが要件に追加されました。

・分類5について、分類の要件の一貫性を持たせる観点から、債務超過等の状況の要件は外されました。

分類 66号 回収可能性適用指針※
分類1 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上しており、経営環境に著しい変化なし。

□当期+過去3年、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を計上。

□経営環境に著しい変化なし。

分類2 過去の業績が安定(当期+過去3年以上、経常的な利益を計上)しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得なし。

□当期+過去3年、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が安定的に発生。

□当期+過去3年、重要な税務上の欠損金なし。

□経営環境に著しい変化なし。

分類3 過去の業績が不安定(過去の経常的な損益が大きく増減)であり、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得なし。

□当期+過去3年、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減。

□当期+過去3年、重要な税務上の欠損金なし。

□当期+過去3年、欠損金期限切れなし。

分類4 期末に重要な税務上の繰越欠損金が存在する、当期+過去3年内において欠損金期限切れが発生している、又は過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が期末に存在し、翌期末、重要な税務上の繰越欠損金の発生が見込まれる。
ただし、重要な繰越欠損金、過去の経常利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が非経常要因による場合は分類3として取り扱う。

□当期+過去3年、重要な税務上の欠損金が発生、又は当期+過去3年、欠損金期限切れあり。

□翌期に課税所得の発生が見込まれる。

分類5 当期+過去3年以上、連続して重要な税務上の欠損金を計上している、又は、債務超過等の状況が長期にわたっており短期間に解消が見込まれない。

□当期+過去3年、重要な税務上の欠損金計上。

□翌期も重要な欠損金の発生が見込まれる。

  • ・各分類の全ての項目にチェックが入る必要があります。
② 実務上の留意点

ⅰ) 各要件をいずれも満たさない企業の取扱い

回収可能性適用指針では、分類ごとに要件を設定し、要件に基づき企業を分類した上で当該分類に応じて回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を見積ることとされています。したがって、いずれかの分類に必ず当てはめる必要がありますが、各要件は全てのケースを網羅するようには定められていないため、各要件をいずれも満たさない企業も存在することが考えられます。この場合には、過去の課税所得又は税務上の繰越欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類することとなります。なお、各分類の要件からの乖離度合いを定量的に検討することは意図されていません。

ⅱ) 分類2及び分類3の利益要件から課税所得要件への変更

分類2及び分類3に該当する企業の分類要件が、利益要件から課税所得要件に変更されているものの、これまで分類2又は分類3に該当していた企業の範囲は変更しないことが意図されています。このことは、従来の「経常的な利益」に基づく判断とおおむね整合的になることを意図して、課税所得からは「臨時的な原因により生じたもの」を除くとされていることに表れています。なお、「臨時的な原因により生じたもの」に該当するかは個々に項目ごとに将来において頻繁に生じることが見込まれるかどうかにより判断することとなります。

(2) 繰延税金資産の回収可能性の取扱い
① 主な改正点

下表は、企業の分類要件に基づく繰延税金資産に回収可能性がある場合について、66号と回収可能性適用指針を比較したものですが、主な改正点は以下のとおりです。硬直的で一律の運用とされていた点が見直されています。

・分類1において、「一般的に、繰延税金資産の全額について、その回収可能性があると判断できる」とされていましたが、「繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする」とされ、一切の例外は許容されなくなりました。

・分類2から分類4については、原則的な取扱いと例外的な取扱いが定められ、原則的な取扱いは従来どおりですが、新たに「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」に認められる例外的な取扱いが定められました。

分類 66号 回収可能性適用指針
分類1 一般的に全額回収可能性があると判断できる。 全額回収可能性があるものとする。
分類2 一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合

原則:一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を見積る場合

例外:スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち将来のスケジューリングを企業が合理的な根拠をもって説明する場合

分類3 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリング結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合

原則:将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得*の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合

例外:5年を超えてスケジューリングできることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合

分類4 翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合で、かつ、その範囲内で翌期の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合

原則:翌期の一時差異等加減算前課税所得*の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合

例外:おおむね3年から5年(分類3に該当)あるいは5年を超えて(分類2に該当)スケジューリングできることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合

分類5 原則、回収不能 原則、回収不能
  • *将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額を除いた額と定義されていますが、分類3及び分類4に該当する企業において、スケジューリングされた将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断するために比較する課税所得の概念を明確化したものです。
② 実務上の留意点

ⅰ) 分類1に該当する企業におけるスケジューリング不能な一時差異の取扱い

従来、分類1に該当する企業においてスケジューリング不能な一時差異について繰延税金資産を保守的に計上しないケースが見受けられたと思われます(例えば、役員退職慰労引当金に係る一時差異について、当該役員の退任時期が不確定であることから保守的に計上していない場合等)。回収可能性適用指針においては分類1の企業は「繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする」とされているため、今後は例外なく繰延税金資産を計上する必要があります。なお、この場合の影響額は、後述の会計方針の変更には該当せず損益として処理する点には留意が必要です。

ⅱ) 分類2から分類4における例外規定

分類2から分類4に該当する企業においては繰延税金資産の回収可能性に関して「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」に認められる例外規定が定められていますが、この意図は、企業が主体的に検討を行い、合理的な根拠をもって説明すれば原則とは異なる取扱いを容認したものであるため、説明できる状況にあっても説明しないことも選択可能と考えられます。しかしながら、これを毎期みだりに変更することは利益操作となるため、認められないと考えられます。各分類における例外規定を適用する上での実務上の留意点は以下のとおりです。

a) 分類2に該当する企業の例外規定

スケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱いの例外として、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該税務上の損金算入時点における課税所得が当該スケジューリング不能な将来減算一時差異の額を上回る見込みが高いことにより、繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異について繰延税金資産を計上することができます。

回収可能性適用指針では、該当例として、役員退職慰労引当金や過去に減損処理された政策保有株式が挙げられていますが、あくまでも、将来、損金算入される可能性のある時点における課税所得が当該スケジューリング不能一時差異の額を上回る見込みが高いことを合理的な根拠をもって説明する必要があることに留意が必要です。

b) 分類3に該当する企業の例外規定

臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画(おおむね3年から5年)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされます。

回収可能性適用指針においては、該当例として、製品の特性により需要変動が長期にわたり予測できるときに、当該需要変動の推移から課税所得が大きく増減している原因を合理的な根拠をもって説明できるような場合や、過去において課税所得が大きく増減していたが、長期契約が新たに契約されたことにより、長期的かつ安定的な収益が計上されることが明確になる場合が挙げられています。いずれにしても一般的な中期計画がおおむね3年から5年という中で、5年を超えて一時差異等加減算前課税所得が発生することを合理的な根拠を持って説明することになるため、その説明は相当程度にハードルは高いと考えられます。

c) 分類4に該当する企業の例外規定

重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画(おおむね3年から5年)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときには分類3に該当するものとして取り扱い、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときには分類2に該当するものとして取り扱います。

回収可能性適用指針においては、分類3に該当するものとして取り扱う例として、過去において業績の悪化に伴い重要な税務上の欠損金が生じており分類4に該当していた企業が、当期に代替的な原材料が開発されたことにより業績の回復が見込まれ、その状況が将来も継続することが見込まれる場合が挙げられています。分類4に該当する企業は、少なくとも重要な税務上の欠損金が直近で発生していることから、「代替的な原材料の開発」が該当例として挙げられていることからも分かるように、合理的な説明にあたっては相当程度にハードルは高いと考えられます。

また、回収可能性適用指針においては、分類2に該当するものとして取り扱う例として、過去において分類2に該当していた企業が、当期において災害による損失により重要な税務上の欠損金が生じる見込みであることから分類4の分類要件を満たすものの、将来において5年超にわたり、一時差異等加減算前所得が安定的に生じる場合が挙げられています。分類2に該当するものとして取り扱われる場合は、該当例にも挙げられているように、もともと分類2に該当するような企業が災害という臨時的な要因により重要な税務上の欠損金が生じたというものであることからも、こちらも極めて限定的なケースと考えられます。

(3) 適用時期及び適用初年度の取扱い
① 適用時期

2016年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用となります。当期末決算としては未適用の会計基準等に関する注記としての開示を検討する必要があります。

ただし、2016年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から早期適用することも認められています。

② 適用初年度の取扱い

適用初年度の期首において以下の3項目(分類2から分類4における例外規定)を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととなります。分類4の要件を満たす企業が分類3に該当する場合には会計方針の変更とは取り扱わない点には留意が必要です。

・分類2に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱い

・分類3に該当する企業における将来の合理的な見積可能期間に関する取扱い

・分類4の要件を満たす企業が分類2に該当する場合の取扱い

適用初年度は、期首時点における判断となるため、特に早期適用する場合には、当期の期首時点(2015年4月1日)において当該適用指針を適用した場合の判断を行う必要があることから、その適用にあたっては、当該時点で入手可能であった情報にのみ基づき、事後的な情報が混在しないよう留意する必要があります。

また、当該会計方針の変更に伴う影響は、適用初年度の期首時点で新たな会計方針を適用した場合の繰延税金資産及び繰延税金負債の額と、前年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債の額との差額を、適用初年度の期首の利益剰余金(ただし、資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等をその他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上する場合又は直接純資産の部の評価・換算差額等に計上する場合には、その他の包括利益累計額又は評価・換算差額等)に加減することとされています。

なお、会計方針の変更に該当する項目がない場合は、追加情報により当該適用指針の適用の旨を注記することが考えられます。上記3項目以外に当該適用指針の適用による影響額がある場合(例えば分類1に該当する企業で従来は役員退職慰労引当金に係る一時差異について繰延税金資産を計上していなかったが、新たに計上する場合など)には、当該影響額は適用初年度の損益として処理することとなります。

③ 早期適用した年度の翌年度に係る四半期連結財務諸表等に対応する比較情報

当該適用指針を早期適用した場合、早期適用した連結会計年度及び事業年度の翌年度に係る四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表に対応する早期適用した年度の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表(比較情報)について会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う定めを当該年度の期首に遡って適用することとされています。

なお、比較情報において期首に遡って適用する範囲に関する規定ぶりが不明確であったことから、2016年3月28日に回収可能性適用指針が改正され、比較情報上も期首に遡って適用するのは②の3項目に限ることが明確にされました。

4.その他の会計上の論点

(1) マイナス金利の取扱い

2016年1月29日に、日本銀行は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定しました。これに関連して、マイナス金利に関する会計上の論点のうち、退職給付債務の計算における割引率に関する論点について、第331回企業会計基準委員会において審議され、当該結果が議事概要別紙として残されています。これによれば、会計基準の取扱いの上では、割引率は期末における市場利回りを基礎として決定されることとされていることから、当該趣旨を踏まえるとマイナスであっても期末における利回りをそのまま用いることが現行の会計基準に関する過去の検討における趣旨とより整合的と考えられています。ただ、すでにゼロを下限とした割引率を用いて決算準備作業を進めている企業がある可能性があること、また、システム上、マイナスの利回りが想定されていない可能性があることから、こうした企業に配慮し、実務上はマイナスとなっている利回りをそのまま利用する方法とゼロを下限とする方法のいずれの方法を用いても現時点では妨げられないものと考えられています。

また、金利スワップの特例処理に関する論点について、第332回企業会計基準委員会において審議され、当該結果も議事概要別紙として残されています。これによれば、仮に借入金の変動金利について金銭消費貸借契約にマイナス金利を想定した明示の定めがない場合で、かつ、ゼロを下限とすると解釈する場合でも、当期末決算においては、これまで金利スワップの特例処理が適用されていた金利スワップについて、特例処理の適用を継続することは妨げられないものと考えられています。

(2) 事業計画を利用した会計上の見積り

固定資産の減損会計、関係会社投融資の評価、のれんの評価、繰延税金資産の回収可能性の評価等の会計上の見積り項目に関しては、事業計画の実行可能性及び合理性が極めて重要なポイントとなります。

2016年1月27日に、日本公認会計士協会から、会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」が公表されています。これは、監査人に対して、昨今の度重なる会計不祥事を受けて、監査の実施に当たっては厳正な態度で真摯に監査業務に取り組むことを強く要請するという内容で、この中の項目の一つとして「会計上の見積りの監査」が挙げられています。ここでは、「会計上の見積りの監査に当たっては、経営者が会計上の見積りを行った方法とその基礎データの検討において、被監査会社の説明を鵜呑みにすることなく、収集した情報や監査チーム内に蓄積された知識に照らして批判的に検討する姿勢を保持する必要がある。また、見積りの裏付けとなる適切な監査証拠を入手し妥当性を検討するとともに、各見積項目について、過年度の見積りと確定値又は当年度の再見積額の比較を遡及して検証する必要がある。」とされています。事業計画の実行可能性及び合理性について、従来以上に監査人の見方は厳しいものとなっているため、過去の事業計画を実績と比較分析して過去の事業計画の合理性を遡及して検討すること(バックテストとよばれています。)や事業計画の実行可能性及び合理性を十分に裏付ける前提情報を準備しておくことが必要です。

以上

太陽有限責任監査法人

公認会計士 杉江 俊志
text : shunshi sugie

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