会計・監査 Report vol.10 2017年3月期第1四半期決算における留意事項

2017年3月期第1四半期決算においては、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」が当期首から原則適用となります。また、2016年度税制改正に係る減価償却方法の改正に対応して、2016年6月17日に、実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」が公表されました。本稿では、これらを踏まえた留意事項について解説します。

なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅰ.繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

従来、税効果会計に関する会計基準として、企業会計審議会から「税効果会計に係る会計基準」が公表されており、実務上は、同会計基準及び日本公認会計士協会から公表されている以下の実務指針等に基づき財務諸表は作成されてきました。

  • 連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(会計制度委員会報告第6号)
  • 個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針(会計制度委員会報告第10号)
  • 中間財務諸表等における税効果会計に関する実務指針(会計制度委員会報告第11号)
  • 税効果会計に関するQ&A(会計制度委員会)
  • 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い(監査委員会報告第66号)
  • その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い(監査委員会報告第70号)
  • 諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い(監査・保証実務委員会実務指針第63号)

しかし、2013年12月に、公益財団法人財務会計基準機構の基準諮問会議より、上記の会計上の実務指針及び監査上の実務指針(会計処理に関する部分)について企業会計基準委員会に移管すべく審議を行うことが提言され、そのなかでも特に問題意識の強かった繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針を先行して開発することとされました。具体的には、上記の実務指針のうち、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い(監査委員会報告第66号)」(以下、「報告第66号」という。)などの繰延税金資産の回収可能性に係る会計処理に関する部分について、基本的にその内容を本適用指針に引き継いだ上で、必要と考えられる見直しが行われました。

そして、2015年12月28日に、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、「回収可能性適用指針」という。)を公表するに至りました。なお、2016年3月28日に、早期適用した場合の翌年度に係る比較情報の取扱いについて、公表時の意図を確認するために本回収可能性適用指針は改正されています。

1.適用時期

回収可能性適用指針は、原則として、2016年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。ただし、2016年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができるとされており、前期末から早期適用することができました。

2.主な改正点

回収可能性適用指針では、報告第66号と比較して、主に企業の分類要件及び繰延税金資産の回収可能性の取扱いが見直されています。主な改正点及び実務上の留意点については、会計・監査Report Vol.8に記載していますので、そちらをご参照ください。

なお、回収可能性適用指針及び2016年3月14日に公表された「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(企業会計基準適用指針第27号)」に対応するため、日本公認会計士協会は、2016年3月25日に、「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」等の実務指針等を改正しています。ただし、本改正は、関連する規定の整理及び字句の見直し等を行ったものであり、会計処理や開示等に実質的な変更はありません。

3.適用初年度の取扱い

(1) 会計方針の変更に該当するか否かの判断

回収可能性適用指針の適用にあたり、それぞれの定めが報告第66号における取扱いをより明確に定めたものなのか、報告第66号の定めの内容を実質的に変更しているものなのかを詳細に検討することが困難であることから、各企業により会計方針の変更による影響額として取り扱う範囲が異なる可能性があることについての懸念がありました。そのため、回収可能性適用指針では、第49項(3)において、会計方針の変更に該当する「報告第66号の定めの内容を実質的に変更しているもの」を以下の3項目(分類2から分類4における例外規定)に限定しています。

  • ① 分類2に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い
  • ② 分類3に該当する企業において、おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い
  • ③ 分類4の要件に該当する企業であっても、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には分類2に該当するものとする取扱い

したがって、回収可能性適用指針の適用初年度において、前述の3項目を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととなります。また、その場合でも、変更後の会計方針を過去の期間の財務諸表に対して遡及適用することはできず、経過的な取扱いとして、適用初年度の期首時点で会計方針の変更による影響額を利益剰余金等に加減する必要があります。

一方、上記3項目以外に回収可能性適用指針の適用による影響額がある場合(例えば、分類1に該当する企業で従来は役員退職慰労引当金に係る一時差異について繰延税金資産を計上していなかったが、新たに計上する場合など)には、当該影響額は、法人税等調整額を通じて適用初年度の期首に損益として処理することとなります

(2) 四半期決算における税金費用の計算について

四半期財務諸表に関する会計基準及び同適用指針において、税金費用の計算に関し、簡便的な取扱い及び四半期特有の会計処理が定められていますが、回収可能性適用指針を適用するにあたり、「前年度末」を「当年度の期首」と読み替える必要があることに留意が必要です。具体的には以下の読み替えが必要になります。

  • ①税引前四半期純利益に年間見積実効税率を乗じて計算する四半期特有の会計処理(四半期財務諸表に関する会計基準第14項、同適用指針第18項)

    「前年度末」ではなく、「当年度の期首」の繰延税金資産及び繰延税金負債の回収可能性等を検討した上で、四半期貸借対照表に計上することとなります。
  • ②繰延税金資産の回収可能性の判断における簡便的な取扱い(四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針第16項、第17項)

    繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、「前年度末」ではなく、「当年度の期首」の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングを利用することができると読み替えて検討を行う必要があります。

したがって、四半期決算において、四半期特有の会計処理や簡便的な取扱いを採用している場合であっても、本第1四半期決算では、「(1) 会計方針の変更に該当するか否かの判断」に記載の3項目の有無の確認だけでなく、回収可能性適用指針の適用により回収可能性の判断が変わる場合には、それを当年度の期首残高として算定し、これをもとに、決算処理を行うこととなる点に留意が必要です。

4.注記事項

(1) 回収可能性適用指針を当期首から適用し、前述の3項目を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合

会計方針の変更として以下の内容の注記が必要になるものと考えられます。なお、以下は、四半期連結財務諸表を作成している場合を前提としています(「4.注記事項」(2)(3)においても同様)。

  • ① 回収可能性適用指針を当第1四半期連結会計期間から適用し、繰延税金資産の回収可能性に関する会計処理方法の一部を見直している旨
  • ② 回収可能性適用指針の適用については、回収可能性適用指針第49項(4)に定める経過的な取扱いに従っており、当第1四半期連結会計期間の期首において回収可能性適用指針第49項(3)①から③に該当する定めを適用した場合の繰延税金資産及び繰延税金負債の額と、前連結会計年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債の額との差額を、当第1四半期連結会計期間の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額に加算している旨
  • ③ 会計方針の変更による影響額
    • 適用初年度の期首の繰延税金資産に対する影響額
    • 適用初年度の期首の利益剰余金に対する影響額
    • 適用初年度の期首のその他の包括利益累計額に対する影響額
(2) 回収可能性適用指針を当期首から適用したが、前述の3項目を適用していない場合

追加情報として、回収可能性適用指針を当第1四半期連結会計期間から適用している旨を記載することが考えられます。

(3) 回収可能性適用指針を早期適用している場合

回収可能性適用指針を早期適用した連結会計年度の翌年度に係る四半期連結財務諸表においては、早期適用した連結会計年度の四半期連結財務諸表について回収可能性適用指針第49項(3)①から③に該当する定めを当該年度の期首に遡って適用するとされています。

前期においては、回収可能性適用指針が期末からの適用であったため、四半期連結財務諸表上は、回収可能性適用指針は適用前でしたが、前述のとおり、比較情報の作成にあたっては前期の期首に遡って適用するとされていますので、前期の四半期報告書における四半期連結財務諸表と、当期の四半期報告書における四半期連結財務諸表の比較情報に相違が生じることとなります。その場合、追加情報において、その旨を記載することが考えられます。

具体的には以下の事項を注記することが考えられます。

  • ① 回収可能性適用指針を前連結会計年度末に係る連結財務諸表から適用した旨
  • ② それに伴い、当第1四半期連結累計期間に係る四半期連結財務諸表の比較情報について、回収可能性適用指針第49項(3)①から③に該当する定めを前第1四半期連結累計期間の期首に遡って適用している旨
  • ③ この結果、前連結会計年度の四半期報告書における第1四半期連結累計期間に係る四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算書に関する事項と、当第1四半期連結累計期間における四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算書における比較情報との間に相違がある旨

Ⅱ.2016年度税制改正に係る減価償却方法の変更

2016年度税制改正において、2016年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物の法人税法上の減価償却方法について定率法が廃止され、定額法のみとなる見直しが行われました。

本税制改正に対応して、2016年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物から減価償却方法を定額法に変更する場合に、当該減価償却方法の変更が正当な理由に基づく会計方針の変更に該当するか否か問題になることから、企業会計基準委員会は、必要と考えられる取扱いを示すため、2016年6月17日に実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(以下、「本実務対応報告」という。)を公表しました。

なお、本実務対応報告は、今後、企業会計基準委員会において、抜本的な解決を図るために減価償却に関する会計基準の開発に着手することの合意形成に向けた取組みを速やかに行うことが前提となっています。

1.実務上の取扱い

本実務対応報告では、以下に該当する場合には、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされました。

対象となる企業 従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業
減価償却方法の変更内容 変更前 変更後
建物附属設備、構築物またはその両方に係る減価償却方法について定率法を採用している 2016年4月1日以後に取得する左記のすべての資産に係る減価償却方法を定額法に変更する

なお、本実務対応報告は、基本的には、すべての建物附属設備及び構築物の両方に係る減価償却方法について定率法を採用している場合で、2016年4月1日以後に取得するすべての建物附属設備及び構築物の両方に係る減価償却方法を定額法に変更するときは、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことを意図しています。したがって、一部の事業場に係る建物附属設備または構築物について減価償却方法は定率法のまま変更せず、残りの資産について定額法に変更する場合は、本実務対応報告の適用対象外となります。この場合など、上表以外の減価償却方法の変更を行う場合には、そのきっかけが税制改正であったとしても、その変更につき正当な理由がある場合にのみ認められ、自発的に行う会計方針の変更として取り扱うこととなる点に留意が必要です。

2.会計方針の変更の注記

本実務対応報告に従い、減価償却方法の変更を会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合は以下の注記が必要になります。なお、以下は、四半期連結財務諸表を作成している場合を前提としています。

  • ① 法人税法の改正に伴い、本実務対応報告を当第1四半期連結会計期間に適用し、2016年4月1日以後に取得した建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨
  • ② 会計方針の変更による税金等調整前四半期純利益金額に対する影響額及びその他の重要な項目に対する影響額

なお、2016年4月1日以後、第1四半期決算期末までに、建物附属設備または構築物を取得していない場合であっても、当該税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う必要があります。したがって、対象資産の取得の有無にかかわらず、会計方針の変更の注記が必要となる点に留意が必要です。

また、この会計方針の変更による影響額の注記は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記と同様の内容を求めることを意図しているため、1株当たり情報に与える影響は記載を要しないものとされている点にも留意が必要です。

3.適用時期

本実務対応報告は、原則として、公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用することとされていますが、2016年4月1日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には当該事業年度に適用可能とされています。これは、本実務対応報告が取り扱う範囲を2016年度税制改正に係る減価償却方法の改正に限定して緊急に対応したものであるからです。

したがって、決算期によっては以下の対応が必要になると考えられます。

決算期 2016年4月1日以後最初の決算日までに対象資産を取得したか 適用可能時期
3月 関係なし 2017年3月期にのみ適用可能
4月・5月 取得した 2016年4月~5月期に適用
取得していない 2016年4月~5月期(早期適用)または
2017年4月~5月期(原則適用)の
いずれも適用可能
6月〜2月 関係なし 2016年6月~2017年2月期にのみ適用可能

3月決算企業の場合には、2017年3月期のみに適用可能ということになるため、対象となる企業は、本第1四半期決算において対応が必要になります。

6月から2月決算企業の場合には、2016年6月期から2017年2月期にのみ適用可能となるため、この2016年6月から8月に終了する決算または四半期決算において対応が必要となります。

しかし、4月または5月決算企業の場合には、2016年4月1日以後最初の決算日までに対象資産を取得したか否かによって対応が異なるものと考えられます。これらの会社は、原則として、2017年4月期または5月期に適用ということになりますが、対象資産を2016年4月または5月の最初の決算日までに取得している場合、既に対象資産について減価償却方法を変更していると考えられますので、実質的に2016年4月期または5月期に適用していると考えられるためです。

以上

太陽有限責任監査法人

公認会計士 髙橋 康之
text : yasuyuki takahashi

TOP△