会計・監査 Report vol.11 2017年3月期の決算留意事項

3月決算会社において、当期から適用となる新たな会計基準等としては以下があげられます。本稿では、これらの新会計基準等の概要等について解説します。また、開示に関する留意事項は、次号において解説する予定です。

区分 会計基準等
税金税効果
  • 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(企業会計基準適用指針第26号)
  • 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(企業会計基準第27号)
税制改正
  • 平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い(実務対応報告第32 号)
退職給付
  • リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(実務対応報告第33号)
  • 債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第51号)

なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。

1.繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

(1) 概要

当該適用指針に関しては、既に当期首から適用されていますので、第1四半期において対応済みのことと思われます。その概要等については、会計・監査Report vol.8及びvol.10に記載していますので、そちらをご参照ください。

(2) 当期末における実務上の留意事項
  • ① 企業が合理的な根拠をもって説明する場合の例外規定の継続性
    当該適用指針にあっては、企業分類に応じた繰延税金資産の回収可能性の取扱いが定められており、分類2から分類4に該当する企業においては原則的な取扱いと例外的な取扱いが定められています。特に例外的な取扱いは「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」にのみ許容されるため、説明ができる状況であっても説明しないことも選択可能と考えられます。この点、当期首において説明しないことを選択して原則的な取扱いを適用していた場合に、当期末において説明することを選択して例外的な取扱いを適用すること(あるいはその逆も含む)は、合理的な理由がない限り許容されないと考えられるため、留意が必要です。
  • ② 当期末において企業分類が変更(ランクダウン)になる場合<
    当期の業績によっては、当期末において企業分類を変更する必要が生じる場合も考えられます。
    例えば、当期首において分類2に該当していた企業が、当期において業績が悪化し、重要な税務上の繰越欠損金を計上することとなった結果、当期末において分類4に変更になることも想定されます。この場合、従来は、重要な税務上の繰越欠損金の発生要因がリストラクチャリングなど特別な要因であった場合には、分類3と同様の取扱いができることとされていましたが、当該適用指針においては、一定の要件を満たせば、分類2又は分類3に該当するものとして取扱うことができる例外規定が定められています(会計・監査Report vol.8参照)。
    当期末において企業分類が変更になった結果、この当期末に当該例外規定を用いる場合には、将来の課税所得の十分性に関して、将来の長期・安定的な収益力の根拠を説明する必要があることから、当該事業計画の合理性及び実行可能性について、事前に監査人と十分協議する必要があると考えられます。

2.法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

(1) 公表の背景

日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針(会計に関する部分)について企業会計基準委員会に移管すべく審議が行われている中で、監査・保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」についても企業会計基準委員会の会計基準として開発されることとなり、2017年3月16日に企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」が公表されました。

(2) 主な概要

当会計基準は、法人税、住民税及び事業税等に関する会計処理及び表示を定めることが目的とされており、監査保証実務指針第63号等における税金の会計処理及び開示に関する部分について、基本的にその内容を踏襲した上で表現の見直しや考え方の整理等を行っており、実質的な内容の変更は意図されていません。

ポイントは、更正等による追徴及び還付の会計処理として、特に追徴の会計処理について、認識時点が明記された点です。下記表にあるとおり従来は会計処理が明確には記載されていませんでしたが、当会計基準においては、偶発事象を資産及び負債として認識する場合の我が国における一般的な考え方を参考に会計処理が明記されています。税務調査が直近で実施されている場合には、十分留意する必要があります。

旧(監査保証実務指針第63号) 新(企業会計基準第27号)
追徴
  • 更正、決定等による追徴税額及び還付税額は、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針に基づき処理することになる
  • 還付されることが確定しているもの及び還付額を合理的に見積もることが可能な還付税額のうち未収額については、重要性が乏しいと認められる場合を除き、「未収還付法人税等」等、その内容を示す適当な科目で表示する
  • 更正等により追加で徴収される可能性が高く、当該追徴額を合理的に見積ることができる場合、当該追徴額を損益に計上する
還付
  • 更正等により還付されることが確実に見込まれ、当該還付額を合理的に見積ることができる場合、当該還付額を損益に計上する
(3) 適用時期

(2)に記載のとおり、当会計基準は、監査保証実務指針第63号等から実質的な内容の変更は意図していないため、公表日(2017年3月16日)以後適用することとされています。

また、同様の理由により、本会計基準の適用については、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しないものとして取り扱うこととされています。

3.平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い

3月決算会社にあっては、既に第1四半期において対応済みのことと思われます。当実務上の取扱いの概要等については、会計・監査Report vol.10に記載していますので、そちらをご参照ください。

4.リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い

(1) 公表の背景

2015年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」において、企業が企業年金を実施しやすい環境を整備するため、確定給付企業年金制度について、運用リスクを事業主と加入者で柔軟に分け合うことができるようなハイブリッド型の企業年金制度の導入を検討することとされました。これに基づき、厚生労働省は、「リスク分担型企業年金」を2017年1月に導入することとし、2016年12月16日に実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」が公表されました。

(2) リスク分担型企業年金の概要

リスク分担型企業年金は、法令上は確定給付企業年金法に基づいて実施するものであり、その主な特徴は、各期の掛金額として、リスク分担型企業年金を導入するときの財政計算において、標準掛金相当額(給付に要する費用に充てるため、事業主が将来にわたって平準的に拠出する掛金に相当する額)、特別掛金額相当額(年金財政計算における過去勤務債務の額に基づき計算される掛金に相当する額)及びリスク対応掛金相当額(財政悪化リスク相当額に対応するために拠出する掛金に相当する額)が規約に定められ、新たな労使合意に基づく規約の改訂がない限りは、当初に規約に定められた掛金は見直されない点にあります。

一方、リスク分担型企業年金における受給者への給付額は、既存の確定給付企業年金と同様に加入者期間又は当該加入者期間における給与の額等に基づいて算定された金額に、財政状況に応じた調整率を乗じて算出されます。例えば、積立金と掛金収入現価の合計が給付現価を下回る場合は、一を下回る調整率を乗じることで給付額が減額調整されることとなり、当該調整率は、財政計算時及び毎事業年度の財政決算時に見直しが行われます。リスク分担型企業年金は、毎事業年度における財政状況に応じて定まる調整率による調整を通じて、自動的に給付額が増減して財政の均衡が図られるように制度設計されている点に特徴があります。

(3) リスク分担型企業年金に係る会計処理

リスク分担型企業年金は、制度上は確定給付制度ですが、その会計処理にあたっては、会計上の退職給付制度の分類を行い、当該分類に基づく会計処理を行うこととされています。

リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、給付に充当する各期の掛金として、規約に定められた標準掛金相当額、特別掛金相当額及びリスク対応掛金相当額の拠出に限定され、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないものは、退職給付会計基準第4 項に定める確定拠出制度に分類し、規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額を、各期において費用処理することとなります。これ以外のリスク分担型企業年金は、退職給付会計基準第5項に定める確定給付制度に分類し、会計処理を行うこととなります。

退職給付会計基準第4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、直近の分類に影響を及ぼす事象(新たな労使合意に基づく規約の改訂など)が新たに生じた場合には、会計上の退職給付制度の分類を再判定する必要があります。一定の掛金以外に退職給付に係る追加的な拠出義務を負うか否かが重要なポイントとなります。

なお、退職給付会計基準第5 項に定める確定給付制度に分類される退職給付制度から退職給付会計基準第4 項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に移行 する場合には、退職給付制度の終了に該当し、これに基づく会計処理を行うこととなります。

(4) リスク分担型企業年金に係る開示

退職給付会計基準第4 項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、次の事項を注記するとされています。

  • ① 企業の採用するリスク分担型企業年金の概要
  • ② 退職給付会計基準第4 項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額
  • ③ 翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額及び当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数

5.債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)

(1) 公表の経緯

2016年1月29日に、日本銀行は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定しました。これに関連して、2016年3月に開催された第331回企業会計基準委員会において審議され、当該結果が議事概要別紙として残されていますが(会計・監査Report vol.8参照)、今般、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合の割引率に関する当面の取扱い(案)が公表されており、多くのコメントが寄せられています。この点、今後の動向を注視する必要があります。

(2) 会計処理

退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法によることが提案されています。

これは、マイナス金利の経済的な性質が必ずしも明らかではない中で、マイナス金利の状況下では様々な論点があり、一義的にはいずれの方法によるかは決まらないとされているためです。なお、下記表は、それぞれの方法の論拠を示したものです。

マイナス金利をそのまま利用する方法 ゼロを下限とする方法
  • 金銭的時間価値は時の経過に応じて減少するものとして信用リスクフリーレートはマイナスとなり得る
  • 年金資産の評価にマイナス金利の影響が反映されるときは、退職給付債務の評価にもマイナス金利の影響を反映させて、年金資産の評価と退職給付債務の評価を整合させるべき
  • 現金を保有することによって現在の価値を維持することができることから、金銭的時間価値は時の経過に応じて減少することはないものとして、信用リスクフリーレートの下限はゼロになる
  • 年金資産の評価と退職給付債務の評価を整合させる必要はない
  • 現時点における負債の金額は将来の見積り支払総額を超えることはない
(3) 適用時期

本実務対応報告は、2017年3月31日に終了する事業年度から2018年3月30日に終了する事業年度まで適用することが提案されており、当期決算に限定されたものとなっています。2018年3月期決算以降については、新たなガイダンスの公表に向けて引き続き検討が行われることとされています。

(4) 実務上の留意事項
  • ① 会計処理の継続性
    マイナス金利をそのまま利用する方法、ゼロを下限とする方法のいずれを採用するかに関する会計処理の継続性については、当面の取扱い(案)には明確な記載がありません。しかし、基本的に、前期に採用した方法の変更には合理的な理由が必要と考えられるため、当面の取扱い(案)が公表されることによって、新たに別の方法を採用することが認められるようになるものではないと考えられます。
  • ② 退職給付債務等の計算以外において会計上適用される割引率
    割引率は、退職給付債務等の計算のみならず、資産除去債務の算定及び減損損失の測定においても使用されますが、当面の取扱い(案)は、あくまでも退職給付債務等の計算における割引率を定めたものであるため、マイナス金利下の状況において、それ以外の取扱いが問題となります。
    この点、資産除去債務の算定に際して使用される割引率も、退職給付債務等の計算における割引率と同様、無リスクの利率とされていますが、マイナス金利をそのまま用いるかゼロを下限とするかは、資産除去債務の算定において、上記(2)の論拠がそのまま当てはまるというわけではないため、慎重に検討する必要があると考えられます。
    また、減損損失の測定に関しては、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクを、将来キャッシュ・フローの見積りと割引率のいずれかに反映させる必要がありますが、一般的には、割引率に反映させる方法が採用されることが多いと思われます。この場合、割引率としては、①資産固有のリスクを反映した収益率(ハードルレート)、 ②企業に要求される資本コスト、③市場平均の収益率、④追加借入利子率などを使用することとされており、無リスクの利率は使用しない点に留意が必要です。

以上

太陽有限責任監査法人

公認会計士 杉江 俊志
text : shunshi sugie

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