太陽ASG Report -IPO-  vol.1 新規上場に伴う負担の軽減について

2013年に公表された金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」報告書では、新規・成長企業の新規上場を促進するために、新規上場時の負担を軽減する提言がされています。これに伴い、金融商品取引法(以下、金商法という)及び企業内容等の開示に関する内閣府令等(以下、開示府令等という)の改正が行われ、新規上場時の負担を軽減する改正が行われています。

改正された内容は、大きく以下の2点となっています。

  • ・ 新規上場時に開示が必要な財務諸表を過去5事業年度分から過去2事業年度分に軽減
  • ・ 新規上場後3年間に限り、「内部統制報告書」に対する公認会計士の監査を免除

本レポートにおいては、主に上記2点の概要及び留意点を中心に以下で解説します。

なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りします。

1 新規上場時に開示する財務諸表に関する事項【開示府令等の改正】

(1) 開示する連結財務諸表及び単体財務諸表について

新規上場時は、有価証券届出書において、直近2事業年度の連結財務諸表及び単体財務諸表と、それ以前の3事業年度に係る単体財務諸表の記載が求められていました。改正後は直近2事業年度の連結財務諸表及び単体財務諸表の記載のみとする開示府令等の見直しが行われています。

従来では、直近2事業年度よりも前の3事業年度の財務情報について、有価証券届出書の第三部【特別情報】の【提出会社の最近の財務諸表】の箇所に個別財務諸表として、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書の他に、重要な会計方針やその他の注記の開示が必要でした。

【改正前】
X-5 X-4 X-3 X-2 X-1
主要な経営指標等の推移
経理の状況 - - -
特別情報(提出会社の最近の財務諸表) - -
【改正後】
X-5 X-4 X-3 X-2 X-1
主要な経営指標等の推移
経理の状況 - - -
特別情報(提出会社の最近の財務諸表) - - - - -
  • ◎:連結ベース及び個別ベースでの開示
  • ○:個別ベースでの開示

このため、直近2期間(上記X-1期及びX-2期)より前の3期間(上記X-3期、X-4期及びX-5期)の個別財務諸表等を作成するにあたり、会社法決算を金商法ベースに組替を行うだけでなく、会社法の計算書類で求められていないようなリース注記の詳細な情報やセグメント情報等、【特別情報】を記載するために新たに情報を収集して有価証券届出書を作成する実務が見受けられ、【特別情報】の作成には相応の負担があったものと考えられます。本改正により、この【特別情報】の記載(上記の【改正後】の表の太枠部分)が不要となるため、新規上場会社にとっては今後負担が軽減されるものと考えられます。

(2) 【主要な経営指標等の推移】の記載について

有価証券届出書における【主要な経営指標等の推移】の提出会社の経営指標等(いわゆるハイライト情報)については、過去5事業年度の情報を記載することとなっていました。上記のとおり、直近2期間(直前期)より前の【特別情報】に記載されていた3期間(上記X-3期、X-4期及びX-5期)の個別財務諸表は不要となりましたが、経営指標等については投資者の投資判断上、極めて重要な情報とされている事項が記載されていると考えられるため、引き続き最近5事業年度に係る情報を該当箇所に記載することとされています(連結経営指標等については最近2連結会計年度)。

ただし、最近2事業年度以外のものについては、会社法上の計算書類が既に作成されていると考えられることから、金商法ベースの数値ではなく、会社計算規則の規定に基づき算出した各数値を記載できることとし、新規上場会社の負担の軽減に配慮したものとなっています。

(3) 非上場のIFRS適用会社の新規上場時に開示される財務諸表の年数について

昨年のIFRS任意適用要件の緩和を受けて、非上場会社においてもIFRSを適用することが可能となっていますが、新規上場会社が初めて提出する有価証券届出書について連結財務諸表をIFRSに準拠して作成する場合には、比較情報を含む最近2連結会計年度に係る連結財務諸表(すなわち、3期分の連結貸借対照表と3期分の連結損益計算書等)を記載することとなっていました。

これについて今回の開示府令等の改正では、非上場会社が初めて提出する有価証券届出書についてIFRSに準拠した連結財務諸表を記載する場合、監査報告書において比較情報に関する事項を記載することにより、比較情報を含む最近連結会計年度に係る連結財務諸表(すなわち、2期分の連結貸借対照表と2期分の連結損益計算書等)を記載することになりました。

また、新規上場会社が初めて提出する有価証券届出書について、連結財務諸表をIFRSに準拠して作成する場合には、日本基準による要約連結財務諸表を記載する必要性が低いと考えられることから、「業績等の概要」の箇所での日本基準による要約財務諸表の記載が免除されることになりました。

(4) 施行時期

本改正開示府令等は、公布日(2014年8月20日)より施行され、同日からの適用となっています。したがって、2014年8月20日以降に提出する有価証券届出書より本改正が適用されることになります。ただし、企業結合会計基準等の改正に伴い、開示府令等の「当期純利益」を「親会社株主に帰属する当期純利益」とするなどの所要の改正が合わせて行われていますが、当該改正については2015年4月1日から施行されることとなります。

2 内部統制報告書に対する公認会計士の監査の免除【金商法の改正】

(1) 改正内容について

従来の金商法では、上場会社はいわゆるJ-SOX制度の適用を受け、内部統制報告書の作成・提出が義務付けられていました。その上で、当該内部統制報告書は公認会計士の監査が必要となっていました。新規上場会社においても、上場後最初に到来する事業年度末後に監査済みの内部統制報告書の作成・提出が義務付けられていました。

今回の金商法の改正では、新規上場会社が上場後3年以内に提出する内部統制報告書について、一定規模の会社(新規上場時の資本金が100億円以上又は負債総額が1,000億円以上の会社が想定されています)を除き公認会計士の監査を免除することができる旨の改正がなされています。なお、内部統制報告書の公認会計士の監査の免除については、任意となっており、監査を受けるか免除するかは選択可能となっています。

(画像をクリックすると、大きく表示されます)

(2) 改正の背景

本改正は、新規上場時には取引所等から内部管理体制を含めた厳格な上場審査を受けていること、内部統制報告書作成等にかかるコストについて、他の上場企業と比べて財務負担能力が相対的に低いと考えられること、最も厳格な内部統制報告制度となっている米国においても、新興企業を対象に内部統制監査を免除する措置が講じられていること等の事情を踏まえたものです。

(3) 改正にあたっての留意事項

今回の改正では、内部統制報告書の監査義務が一定期間免除されるだけであり、新規上場会社が上場にあたり、適切な内部統制を構築したうえで内部統制報告書を作成し提出する義務は引き続き必要であることに留意が必要です。

また、改正金商法の施行は、原則として公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日とされているため、施行時期や免除可能な対象会社の規模については今後の動向に留意が必要です。

以上

太陽ASG有限責任監査法人

公認会計士 下川 高史
text : takafumi shimokawa

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